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何も知らない、無垢で愚かな貴方(千尋)

「澪士」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこには珍しい人が居た。

「……千尋お兄ちゃん」
「寒いだろ。入んなよ」

 素直にベランダから中に入ると兄は俺の肩にカーディガンをかける。

「いいよ、これ。お兄ちゃんのでしょ。大きいよ」
「いいから」

 こんなひと、みたことない。……本当。
 多分、あの小林大和とかって人に何か言われたんだ。そうに決まってる。
 だって、じゃなきゃ、俺に優しくする筈がない。

「何で外に出てた?」
「……月が綺麗だったから」
「月だったら家の中からでも見えるだろ」

 本当の理由を教えて、と。
 いや教えなさいと兄は暗に言っていた。
 隠し通せないと知り、俺は諦めて口を開く。

「――あの人が、居たんだ」
「あの人って」
「小林大和」

 兄の目がゆっくりと見開かれていくのを見ている。

「あの人、家の前に居たの。立ってたから、寒くないのって聞いたよ」
「そしたら、何て」
「寒くないよって笑って言った。でも、外は寒いから、俺の上着を貸してあげたの」

 兄は嘘だと思うだろうか。あまりにも彼に執着し過ぎているから。
 それはただの幻影で、俺の見間違いだと笑い飛ばすだろうか。

「……じゃあ、明日、学校で返してもらった方がいいね」
「うん」
「言っておくよ」

 もう帰ったんでしょ、と聞かれたので、俺はうんと答えた。

「何しに来たんだろう」
「分かんない……あ、でも」

 俺の部屋を出て行こうとした兄は振り返る。

「まだもし、寒いって言ってたら、貸してあげてね」

 兄は笑って出て行った。



 次の日、兄は俺の上着を持って帰ってきた。
 もう寒くないと言っていたと言うが、兄が朝羽織って行った筈のカーディガンがない事に俺は気付いていた。
 ……そういえば羽織って行ったのは確か、昨日俺に着せてくれたカーディガンだっけ。
 もう、どれが本音か分からない。

「千尋お兄ちゃん」
「ん?」
「大和くんは、何か言ってた?」

 兄は笑う。きっと学校でこんな笑顔は見せない。
 俺は知らない。多分、俺は兄の何も知ることはないだろう。

「何も」

 嘘をついてるのは、多分お互い様。












小林くんと千尋のコンビが大好きです。
小林くんが撫で撫でされてるのが好き。



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