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迷い惑いを嘲笑う(城野広樹)

 俺と広樹は幼なじみ。
 俺が先に東京に出てきて、彼が後から俺の家に来た。
 俳優を目指してるんだ、とか言って笑っていた。
 貧乏な学生は家賃を折半して住んでいた。






「で、役は貰えるわけ?」
「どうかな」

 広樹の買ってきたつまみを食べる。

「西嶋條子と寝てきた」
「ふぅん、西嶋……って、」

 あの女優の!? と叫ぶと、広樹は得意げに笑った。

「……よくそんな事できたな」
「誘ってきたのは、向こう。まぁ悪くはなかったから、次の役がもらえなくてもよしとする」
「……はぁ……」

 どす黒く渦巻いた気持ち悪い芸能界の裏側を見ていると、吐きそうになってくる。
 どこも頭の緩い奴らばかりで、ちょっとばかし性交渉をすれば何でも上手くいくと思っている奴らばかりらしい。
 ――いや、実際、上手くいってるみたいなんだけど。

「……なぁ、広樹」
「ん?」
「俺、引っ越そうと思うんだ」
「……はぁ?」

 広樹は突然の事に面食らったようだった。
 しかし、俺としては前から考えていた事である。

「だって、俺とお前じゃ生活違い過ぎて、一緒に住むのも辛いだろ。だから俺は、寮に入るか下宿しようかなって」
「……何でまた、今更」
「思い立ったが吉日、ってやつ」

 というか、広樹と共に居るのが疲れたのだ。
 広樹の事は嫌いではないが――というか心持ち『好き』に傾いている俺としては、誰それとヤった、とか女優やタレントの名前が出てくるのが嫌なわけで。
 もしかすると離れてもそんな事を言ってくるかもしれないが、でも多分、一緒に住んでいるよりマシ。
 行く宛てはないが、とりあえずそう切り出しておく。

「ていうか、マジかよ」
「マジです」
「考え直せよ。俺が俳優やめればいいのか?」
「……何でそうなる?」

 いつになく真剣な瞳で射抜かれ困惑する。

「だって生活リズムが合わないんだろ。俺がバイトとかすれば、多分大丈夫」
「ん、あぁ……そういう事か」

 そういえばそういう話だった。

「でもさ。俳優は広樹の夢だろ。そんな簡単に諦めていいのか? 俺はだって一緒に住んでなくてもいつでも電話したりできるだろ。でも、俳優は――」
「好きだ」
「……は?」

 枝豆を皿の中に落としてしまった。

「別に、俳優じゃなくてもいいんだ。俺の一番の夢は、澪士と一緒に居る事だから」
「え――え、今何て?」
「俳優にしたのは、2番目の夢だから」

 そう言って笑う。
 俺は何も言えないまま、何もできないまま広樹をじっと見ていた。

「だから。そんな事言わないで、澪士、俺と一緒に暮らそう。このまま」

 広樹の手が伸びてきて、俺の手を掴む。
 安心した。
 同時に、彼が居なければ俺は生きていけないと悟った。

「――でも」
「俺が、他の女を抱くのが嫌だって言うなら、俳優なんてやめるから」
「いや……俳優のままで頑張るとか、ないわけ」
「前も言わなかったか? そんな事言えるのは子役ぐらいだって」

 ……そりゃあ小さい子は、物理的に無理だよな。
 目眩がする。俺だったら、そんな世界には居られない。

「何でもするよ。澪士と一緒に居られるなら」
「広樹……」
「だから、出ていくなんて言うなよ」

 そんな事を言われなくても、俺はもう離れられそうにない。
 俺だって広樹が好きだったのだ――共に居られるなら、それが一番いい。









(そっか……澪士も、俺の事好きだったのか)
(言うなよ……恥ずかしい)

芸能界全然分かりませんすみません



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