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それで君が幸せになれるなら、僕は(藤沢高夫)

「あれ、藤沢さん、女の子連れてきたんだ」
「……分かるのかい?」

 笑いながら言うと、ばつが悪そうに彼は言った。

「何となく。藤沢さんじゃない匂いがする」
「……頼むから、普通に呼んでくれ」
「少し香水っぽい匂いと、汗の匂い。ヤっちゃったんだね、藤沢さん」

 彼は本当に困りきった顔をしていた。
 普段であれば、それを愛しいと言って抱き寄せるところだろうが――今は違う。
 俺は怒っているのだ。

「何だっけ。この間、俺に内緒で開いたパーティーに居た子? 山木さんが連れてきた、キャバクラ嬢」

 彼は既に、俺に対して何か言うのを諦めたらしかった。

「俺達がいつも一緒に寝るベッドで愛し合っちゃったわけ。本当、藤沢さんも懲りないよね。女の方がいいなら俺なんてさっさと捨てればいいのに」
「澪士、」
「その子と上海に行けば?」

 俺はそう言って背を向ける。
 ほぼ自虐ネタだ。彼にダメージを与えるより俺の心の方が痛い。
 ――ついさっき来たばかりだが、帰ろう。もうここには居たくない。
 ついでにこの関係を終わらせてしまおう。

「さよなら」

 そう言って一歩踏み出した時、不意に右手首を掴まれた。

「なっ……」
「澪士、君の許可を取らずに女の子と関係を持ってしまった事は悪かった。謝る」
「そ、そんな事言われても、」
「でも、性的欲求に限界はある」

 そう言われると、俺は弱かった。
 結局振り向いて、彼の瞳を見つめながらじっと黙る。

「だから。君が僕に身体を委ねてくれると言うなら、もうこんな事は絶対しない」
「……そんなの、」
「約束する」

 彼の約束は重い。――知ってる。
 というかこの問題については、彼だけのせいではなく、勿論俺が悪い事もあるのだ。
 ――付き合い始めてから3年経つのに、まだ1回しかヤった事がないから。

「……何て言えばいいわけ」

 男だし、たまるものはたまる。
 彼もできるだけ1人で、とは言うがそれにも限界がある事は知っていた。
 だから、ヤってしまうのも、俺が責められるような事ではない。
 にしても。

「そもそも家に呼ぶ必要なんてないだろ。何、その子と結婚するつもりだったわけ?」
「そんな事はない」
「じゃ、家でヤる必要ないだろ」
「ベッドは取り替えた」
「……へ?」

 唐突な言葉に思わず聞き返す。
 ……もっとも、同じ事を再度言われたところで理解はできなかっただろうが。

「君が前、欲しがっていたベッドに。もし嫌だって言うんなら、引っ越してもいい」
「そういう問題じゃ、」
「もう絶対に、君の嫌がる事をしないから」
「……っ」

 そう言われると弱い。
 結局俺が彼を突き放す事などできないのだ、そう思う。
 ――惚れた弱みってやつ?

「――本当に?」
「絶対」
「じゃあ、ベッド見る」

 これで、俺が1番気に入ったベッドじゃなかったらワガママ言って困らせてやろう。
 そんな小さな復讐しかできないけど。
 彼を手放せないのは、俺も同じだから。










(愛してる、澪士)
(……俺もだよ、高夫)

マイナー過ぎる気がする。
藤沢さん好きです



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