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何時の日か朽ちる其の日まで(ナムキャット)
俺の恋人は、格闘家だ。
格闘家と言ったら何か誤解されてしまいそうだけど――例えば筋肉達磨とか、賢くないとか――彼はその全てを覆す。
……あ、まあ、男だっていうのは認める。俺が男だっていうのも。
でも、彼は優しい。俺のことを大事だと言い、愛してくれる。
長い間連れ添った俺を、大切にしてくれる。
だから俺も、何か返したいのに――彼はそれを、許してはくれないのだ。
「なあ」
ナムキャットは振り返る。優しい目で俺を見る。
勿論、“ナムキャット”は本名ではないのだが、世間ではそう呼ばれているためそれに倣うことにする。
「日本人の奴と、試合、するんだって?」
「ああ」
高原日勝って言ったかな、とナムキャットは首を傾げながら言った。
褐色の肌にはホテルの夜景が映える。いや、何であっても彼は美しいし、その美しさを汚せるものも無いのだけれど――
「……心配? レイシ」
くすりと笑い、手を伸ばしてくるナムキャット。その優しさは振り払う気にもなれない。頬を撫でる温もりは、甘んじて受け入れておいた。
そして、それ以上は何も言わないでおくことにした。
相手の男が、食らった攻撃を次々と自分のものにしていること、そのために戦っていること。
多分、ナムキャットは知っているだろうと思った。知っていて、その試合をするのだろうと感じた。
「ん……」
「正直に言って。レイシ」
「……心配、だよ」
何故って。あくまで格闘技だから、死んだりは流石にしないだろうけど。
傷つくのは仕方のないことなのだ。だけど、それでも。
「やだよ。俺、お前の傷つく姿なんて見たくない」
「……ボクも、出来るならレイシを悲しませたくない」
「だったら何で、」
「強くなりたいから」
俺はナムキャットを見上げる。彼は揺るぎない瞳で応える。
「強くなって、レイシを守りたい。……だから」
「そんな、」
言葉を失った。どういう意味なのか、理解できなかった。
強くなりたい? ――だって、彼は。
「もう、十分強いだろ」
「いや、まだ……ボクは“最強”が欲しい」
「何で……そんな、要らないよ」
「ボクが最強だったら、レイシのこと、誰からも守ってあげられるから」
どんなことからも、何からも。ナムキャットは言う。
俺は、自分の視界が潤むのを感じた。
「そんなことのために……? そんなことのために、戦うのか? そんなの、」
「そんな風に言わないで、レイシ。レイシは、ボクが初めて守りたいと思った人だし、守りぬきたいと思ってるんだ。……だから、守らせて」
「でも、」
俺も男だってこと、彼は忘れているのだろうか。
俺だって、守られるだけではなく――もっと愛したいって、そう思ってるのに。
だって俺は、彼に何ができる?
「……じゃあ、あのさ、」
約束、してください。
「ちゃんと帰ってきて。俺は――お前が居てくれさえいれば、他には何も、要らないから」
「レイシ」
「いつか朽ちるその時まで、ずっと一緒に居よう」
確約が許されないのだったら、俺はただ願おう。
ただその時、その瞬間、同じ時間を過ごせますようにと。
久しぶりにやって、ナムキャットの美しさに惚れ直した
やべーイケメン!あれで「ボク」とか最早公害ry
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