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午前零時の終焉まで、あと何分?(ピトー)

「――ピトー」
「何? レイシ」

 俺はピトーの首筋に顔を埋め、泣きそうな声で名前を呼ぶ。
 俺の心が揺れているの、分かったのだろうか。……いや、人の気持ちを読み取るのは、プフの方か。

「夜なんか明けなきゃいいのに……夜が明けたら、またピトーは居なくなってしまう」

 今、我らが王の傍につくのは、ユピーとプフ。彼らは感情の揺れが激しく、まだ心も育ち切っていないから、それぞれ1人でいるには危険だった。
 その点、ピトーはまだマトモである。こうして、人間である俺を前にしても、食べることもなく共にベッドに入っているのだから。

「……それが、ボクの全てだよ」
「王を護ることが?」
「王にお仕えできることだけが、ボクの喜び」

 それは最早、刷り込みであった。
 自身が生み出した感情とは違う、生まれた時から既に持っているものであった。
 王と同じ。ユピーも、プフも。
 そうして彼らは生きているから、俺たち人間とは根本的に分かり合えないのだ。

「……ごめん。こんなこと言っても、ピトーは困るだけだったな」
「ううん、いいよ」

 でも、と言って、ピトーは窓の外を見る。
 豪奢な宮殿の中から見る時でさえ、月は変わらない。
 俺が生まれた頃から同じように、ずっと同じように月は青白く輝いている。

「何だか、レイシと一緒に居たら、ボクは変な風になっていく気がするんだ。何かはよく分からないけど。ボクはそれが怖い」

 ピトーの目はこちらを見てはいなかった。
 にも関わらず、顔を上げた俺は、見つめ合っているような感覚を覚えた。

「人間のレイシなら、ボクのこの気持ち、分かるのかな?」

 俺の目からは、確かに一筋の涙が溢れ出る。ピトーは、ただのキメラアントではなかったのだ。
 ピトーはゆっくりと振り返り、俺から身体を離し、じっと見つめてきた。

「……分からない」
「そっか」
「でも……きっと、ピトーが持っていていい、感情ではないと思う」
「うん」

 ピトーの手が俺の頬に伸び、そっと覆う。
 涙を拭うでもない、ただそれだけなのに、俺の心は確かに震えた。

 ――嗚呼、その感情の名は――

「じゃあ、ボクとレイシは、あまり近くに居ない方がいいかもね」






 月の下で、いつも二人きりだった。
 いつか終わりが来ることは知っていた。でも、それでも手を伸ばして求めていた。
 何も起こらない平和を望んでいたわけではない。むしろ、もう二度と目覚めることのない、死。
 この身体と心を何者にも脅かされることのない、安楽の死を求めていた。

「……ありがとう、ピトー」

 もう来ることのない朝は、願わない。
 ただ1つ、願うならば、キミのくれたこの感情を永遠まで連れて行こう。
















***
ピトー女の子だと思ったけどキメラアントって♂しかいないんだってね
好きなのでとりあえず気にしないで書いてみた。



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