白と黒と焔の悪魔 | ナノ


 ウソでなければ。
 そうでなければ。
 彼らは必ずやってくるだろう。
 道の真ん中に座り込み、俺はじっと向こうを見据える。

「ふっふっふ……こんな事もあろうかと、俺はずっと女物の服を着ていたんだ。虚しくないのかって? 別に――」
「誰ニ向カッテ喋ッテルンダ、レイシ。ソレヨリモ来ルゾ!」
「!」

 白馬が近付いてくる。……あれこれもデジャヴなんですが。
 沢山の馬は遠巻きに見ている、あれも確かに、軍の一部な筈なのに。
 一頭の馬だけ――

「ラミレス様!?」
「……お前か。まだこの辺りに居たのか」
「はい」

 見下ろしてくる瞳。……綺麗なひとだ。イスハークとはまた違う美しさがある。
 彼は少し目を細めたあと、考えるようにして言った。

「それで、何故ここに居る? 戦場から離れろと言われた筈じゃなかったのか」
「いえ――お、私は」

 そうだ。負けちゃいけない。俺にはやる事がある筈だろう?
 ぐっと拳を握りしめ、馬上のラミレスを見上げた。

「私は……イスハーク将軍に、戦を止めてほしいと言われました」

 ラミレスは少し――ほんの少しだけ、表情を変える。

「私がここに居るのはそのためです」
「まさか、本気で止められると思っているわけじゃないだろう?」
「……そのまさかです」

 俺は思い上がる。だってそれは可能なんだ。
 数日前の出来事を忘れたわけじゃない。

「ラミレス様も、卑怯じゃないですか。確かに日を改めるとはおっしゃいましたが、こんなに早いなんて」
「嘘をついたわけじゃない」
「例えそうだとしてもです」

 ラミレスは少し考えるようにしたあと、頷いた。

「分かった。……君には敵わないな」
「では……?」
「イスハーク将軍が出陣しないというのなら、私も引こうか」
「それは、大丈夫です」

 彼は戦を望んでいない。
 それは俺が知っている。

「本当は一個人の権限で軍を退くなんてできないんだけどな」

 くすりと笑うラミレスの表情は今までと打って変わって優しい。

「……すみません」
「謝る事はない。……好きで戦をする者なんて、誰も居ないんだから」

 俺は頭を下げた。ラミレスはまた笑う。
 そして手綱を引き、方向転換をしかけた、その時だった。

「そうだ。君は知らないようだから1つ教えてあげるよ」

 背を向けたままラミレスは言う。

「戦を全て止める事はできない」
「……分かってます」
「これは偉大なる王の、神のご意志だ。それをいつまでも妨げることはかなわないし、いずれ君は捕らえられるかもしれない」
「はい」

 でも、と言ってラミレスは振り返った。

「君がもし捕まったら私が助けに行くから、覚えておいて」

 そう言い残して馬は疾走する。
 なにごとかを軍に言って、それぞれ来た方へ去って行く。
 ……待て、よ?

「い、今、何て……?」
「見ロ、言ワンコッチャナイ!」

 ……俺は何だか、とてつもないことに巻き込まれている気がします……。



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