白と黒と焔の悪魔 | ナノ


 そういうわけで、俺はそれから彼らの動向に気を遣うようになった。
 イスハークの言葉――俺は忘れはしない。彼らだって、好んで争っているわけではないのだ。
 ただ、武器を交える事でしか、語れない言葉があるから。






「ツマンネーノ……」
「シャイターン、そういう事言わない! シャイターンは黙って見張ってればいいの!」
「ハイハイ」

 頬杖をつきつつ、シャイターンは面白くなさそうに答える。
 まぁ彼は、2人の将軍が嫌いなようだし、つまらないだろうけど。
 俺にとっては大分死活問題である。

「それより、城から出撃してくる様子はない?」
「ナイガナァ……ソレヨリ気ニナルコトガアルンダガ、言ッテモイイカ、レイシ」
「ん、何?」

 木の上に座っていたシャイターンがするりと下りてくる。

「向コウノ方カラ地響キガ聞コエテクル」
「地響き? って――」
「ホラ、アレ」

 シャイターンは指をさす。俺はシャイターンの肩に頼りつつ、そっちを見た。
 何も視認はできないが――あ、待てよ?

「これってデジャヴ――」

 俺はシャイターンの服を掴む。このままではまずい。
 早く茂みに、と小声で言う。

「何ダ、珍シイナ、レイシカラソンナコトヲシテクルナンテ」
「や、そういう問題じゃないし、そんな流れじゃないから! とりあえず茂みに、早く!」

 この地響きが気のせいでないならば――多分、彼らが来る。

「あのさ、シャイターン」
「ン?」
「もう少ししたら……俺だけ、そこに置いといてほしいんだ」
「………………ハ?」

 シャイターンの表情が呆れたようなものに変わる。

「何ヲ言ッテイルンダ、オ前ハ。ソンナコトデキル筈ガナイダロウ、危ナイシ」
「や、平気だよ。俺もなかなか死なないようになってるって言ったのはシャイターンじゃん?」
「ソウダケドナ……」

 近付いてくる。これは確かに馬の蹄の音だ。
 “敵”を滅ぼそうと、大地を駆ける音が聞こえる。

「シカシ、危ナイモノハ危ナイ。我ニモ分カル、今近付イテキテイルノガ何デアルカクライハ」
「だったら、余計! 分かるだろ、俺はあいつらを止める約束をしたんだって!」

 駄目なら、と言って俺は、シャイターンの肩を押し立ち上がる。
 駄目ならいいんだ――俺1人だって、やれる事はある。
 そこに出て、今来るであろう、将軍に言葉を伝えることくらいは――

「――ワカッタ」
「え?」
「我ハココカラ見テイルゾ。オ前ガ危ナクナッタライツデモ助ケル、ソレデイイナ?」
「――ッ!」

 シャイターンはそう言うと、俺を抱き上げ、道の真ん中に座らせた。
 軍の人間が市井の人々を素通りする筈がない、そう思ったのだろう。

「ありがとう、シャイターン」

 俺が少しだけ彼に触れると、一瞬だけこっちを見たあと、目を逸らしてしまった。
 多分、照れたのだろう。

「はは、可愛い、シャイターン」
「……ウルサイ。ソレヨリモウ少シデ来ルゾ、心ノ準備ハイイカ?」
「……あ……」

 音は大分近い。多分、そう経たない内に彼らは姿を見せるだろう。
 こんな昼間から堂々と戦か、なんて思うけど、俺は。

「――大丈夫だよ」

 俺は必ず止めてみせる。



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