家にお呼ばれ


「――畜生」

 静雄は早々に瀬梨と臨也を見失い、苛立っていた。
 多分、新宿に向かったとは思うのだ――新宿といえば、向かう場所は1つしかない。
 しかしその想像を信じたくなかった。
 最悪の結果を考えるには、まだ早い。

「……確かに瀬梨は、弱くはねぇけど」

 機転が利くのと勘がいいのと。
 学校の成績だけは普通だったような気がしていたが、それも気のせいだったのだろうか。

「行くしかねぇよな」

 ――自分には、その選択肢しか残されていない。
 まだ幼馴染みを知らないのか、と自分に苛立ちながら、静雄は走り出した。






「――本当に、家だ」
「最初からそう言ってるじゃん」

 新宿に着いて、折原の家に来た。
 抵抗をしなかったのか、と聞かれればそこは黙るしかない。
 何ていうか、俺のせいじゃないし。

「ようこそ俺の家へ」

 玄関で下ろして、そう言ってくれたから、俺も乗ってみる事にした。

「お邪魔します」

 靴を脱ぐと手を差し出されたので重ねる。
 エスコートされて、リビングへ向かっていった。

「わ、広っ……折原、こんな所に1人で住んでるわけ?」
「ん? そうだけど。よく1人って分かったね」
「……あー」

 最近、ボロを出しまくりだと反省した。
 しずにも1回言われたし。

「……何となくだよ」
「そう?」

 追及されそうな気がして、思わず身構える。
 しかし折原は苦笑して、俺をソファーに座らせただけだった。

「折原……?」
「まぁ何も、君を取って食おうってわけじゃないから。少しは信用してくれていいよ」
「――しずがこんなに嫌いになる人を、見た事がないんだ、俺は」
「ん?」

 ソファーに身体を沈み込ませながら呟く。

「……あんたが相当悪い人なのか、しずの勘違いかってところだよね」

 多分前者だろうと思う。しずは人を傷付けたがらないから。
 そんなのは誰も同じなんだけど、しずの場合はそれが強いから。
 考えながらじっと折原の目を見ていると、突然、彼は笑った。

「折原……?」
「瀬梨ちゃんって、面白いね。シズちゃんの事を考える時だけ、そんなに真剣になるんだ」
「……は?」

 折原が近付く。

「――それ、崩してみたいな」

 頭の中で警報が鳴った時には、もう遅かった。
 キスをされた、と認識するのは抱き上げられた時より早くて。
 ――そんなのを間近に見ても尚冷静なのは、あまりにも驚いたせいかもしれなかった。

「折原……?」
「ごめんね、ファーストキスだった?」
「……違うけど」

 ファーストキスなどとっくに終えている。

「――何でそんな事、したわけ?」

 分かっていてわざと聞く。
 それが分かっているのか、折原も笑いながら答えた。

「何でって、決まってるじゃん、そんなの。分かってるんでしょ、瀬梨ちゃん」
「――うん」

 今のは軽かった。触れるだけのキス。
 悪意のない、なんて言ったら嘘になるけど、戯れのようなキスだった。
 ……でも、次、気を抜いたらマズイ。
 多分、舌を絡めるようなキスだけじゃ留まらないだろう。

「……離れて」

 頼む、もし、近くに居るのなら。
 初めてしずに頼りたいと思った。






















11-1/23
(――他人をこんなに怖いと思ったのも、初めてだ)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -