ラッキーキャット


「おい瀬梨、どういう事か説明しろ!」
「説明も何も、俺だって聞きたいくらいだよ」

 下の方からしずの声が聞こえた。

「ここら辺歩いてたらたまたま折原さんに会っちゃって、そこにしずが来ただけだよ! な、そうだよな!」
「――うん」

 折原の声は俺に答えたようではなかった。
 何か考え事でもしているのだろうか。……上からでは分からない。

「それよりもしずー、あまり俺の名前連呼しないでくれるかな!」
「何でだよ」
「だってバレちゃうじゃん」

 俺が何の為に教えなかったと思ってんのさ。

「……今日は随分と、観客が多いね」
「え?」

 折原が呟く。
 確かに――『24時間戦争コンビ』と言われる彼らの喧嘩なんて、近くで見ていたら危険な筈だ。
 しずは周りには目もくれなかったが、変な気がする。

「……おい、あれまさか」
「あぁ」

 ――そして気のせいか、俺の方を指されてる気が。

「『池袋のラッキーキャット』?」

 しず、折原の動きが止まった。
 その一言に野次馬のざわめきもぴたりと止まる。
 ……誰だ、今そんな事言ったの。

「確かに……そうかも」
「コンビニの屋根に乗れる奴なんて居ないだろ」
「得した! これで明日のテストは大丈夫だな!」
「凄い! 写メっとこ!」

 あちこちでフラッシュが焚かれるなか、中心に居た2人は俺の方を見上げていた。

「ラッキーキャット――君が?」
「瀬梨、まさかお前が……」
「――あー」

 実は、あんまりバレたくなかった事ではある。特にしずには。
 まぁ『バレた』とかいってる時点で答えは見えてるようなモンなんだが、そこは置いといて。
 表情を歪め、俺は溜息をついた。

「あぁ……まぁ、そうとも、呼ばれてるらしいね」

 言っておくが、俺が名乗ったわけじゃない。気が付いたらそう呼ばれていたのだ。
 じっと2人を見下ろす。
 2人は放心状態の様に俺を見上げているだけだった。

「そ……それより2人とも! 喧嘩! 俺それを見に来たんだって!」
「普通喧嘩を薦めるか?」

 いや嘘じゃないけど、100%の本音でもない。
 だって炭酸……。

「ま、いいじゃん。瀬梨ちゃんの願い叶えてあげようよ」

 『ちゃん』じゃないけどさ。
 折原は笑う。……何だ、イケメンじゃん。
 少し興味が出てきた。

「――手前の息の根を止めるにはいい機会かもな」
「はっ、シズちゃんなんかに俺が殺せるの?」
「……手前……」

 そうして少し俺の予期せぬ形で、『喧嘩』は始まった。

















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