遭遇池袋


「……最悪」

 家を出てから、財布を忘れた事に気付いた。

 全く。これじゃ欲しかった物が買えない。
 何の為に池袋に出てきたと思ってる? 新発売の炭酸を買う為に来たのに。
 勿論それが新宿に売っていないわけはないが、俺としてはやっぱり慣れた池袋の方がよかった。
 それにね……3日前に会ったばかりのしずに、もう会いたいと思ってるし。

「全く……俺って、ツイてないな――ん?」

 石ころを蹴りながら人込みをよけて歩いていると、フと目に入った。
 この間見たばかりの色。
 あの時は夜中だったからイマイチ分からなかったけど――そうか、これが。

「……俺、ツイてんじゃん」

 ゆっくりとその歩みを追う。多分向こうは気付いてる。
 周りには沢山人が居る筈なのに、2人きりで居るような、そんな錯覚を覚えた。

「――折原臨也」

 ぴく、と反応する。

「新宿に住んでるって聞いたけど、何だ、池袋にも居るんだ」
「……君は、この間の」
「何? 何の話?」

 他の人と間違ってるんじゃないの、と言うと、赤い瞳がすっと細められた。
 ――怖い。
 一瞬でこの俺にそう思わせる程、その視線は鋭く。

「……名前」
「は?」
「君の名前は?」

 そう問う折原の表情に、既に先程のような相手を威嚇する色はなかった。
 見間違いかと思った。……でもきっと違う。

「教える理由、ないでしょ」
「でも君は俺の名前を知ってる」
「それはあんたが有名人だから」

 ちなみに俺もそれなりに有名人なのだが、名乗ってしまうと意味がない。伏せておく事にする。

「……それに、俺があんたの名前を知ったのは、しず経由だよ」
「――しず?」

 シズちゃんの事、と聞かれ、しずが彼を嫌いな理由が分かった気がした。

「でも、ここで会えるなんて偶然! 俺、あんたが死ぬ前に、あの有名な『喧嘩』見てみたいなぁ……」

 あれから少し、ネットで聞きかじった事である。
 と言っても行きつけのチャットでちょっと話題を出してみたら恐れながらも皆話してくれた。
 ――同時に、池袋育ち新宿住みの俺が、どうして知らないんだろうとも思った。

「あ、『戦争』って呼ばれてるんだっけ。何でもいいや、見てみたいなぁ」
「……ここに来れば、2日に1回は見れるよ?」
「えっ、そうなんだ、でも残念」

 折原は不審そうに眉をひそめた。

「あんた、もう死んじゃうから」



 俺が死ぬと言えば死ぬのだ。そうさ。
 俺には幸運の女神がついてる!
 究極の幸運は常に俺の味方。だからいつだって大丈夫!
 さっきも落ちていた五百円玉を拾った。これで炭酸が買えるよ!



「何やってんだ瀬梨――」
「! しず!?」

 そこまで考えたところで不意に声を掛けられ、俺の思考は現実に引き戻された。
 吊り上がる折原の唇の端、ゆっくり振り返る俺、表情が険しくなっていくしず。
 それも全て三者三様。

「――もしかして――」

 しずの機嫌は急降下。多分底をも突き抜けた。
 でも俺の機嫌は急上昇。そうだ、『戦争』が見れるんだ!
 俺はひょいと近くのコンビニの屋根の上に飛び上がった。

「凄い、凄い! まさか本当に見れるなんてね!」

 やっぱ俺ってツイてますね!
















11-1/16



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