見えた流れ


「へー」

 チーズをつまみながら適当な返事を返す。

「つまり、あの黒い髪に赤い目のイケメンさんはまたの名を折原臨也といって、しずに仇なす凡愚なんだね?」
「……手前、知ってたのか?」
「へっ?」

 しずに言われ、漸く俺は自分が何を言ったか分かった。

「あぁ……見えた、んだよ?」
「見えたって」

 珍しくしずに追及される。……それもそうか。

「手前、知らないって言わなかったか?」
「言ったけど――見えたんだって」
「見えたって、7階だし、カーテン引かれてただろ」

 あんまり言いたくない。しかしボロを出したのは俺の方だ。
 頭をかくと、小さく溜息をついた。

「……だからさぁ。帰ってくる時に、俺、大声出したじゃん。あれ別にテンション高かったからじゃなくて、その折原臨也って人が見れるかなって思ってやったんだよね」
「は……?」

 つまり、と向かいに座るしずの方に身体を寄せる。

「しずが標識持ってたって事は、ついさっきまで追い掛けてたか何かしてたって事でしょうが。て事は寝てる筈がない、きっと外を伺ってる。だからしずを連れてったのが誰かって思った筈だな、って思って」
「瀬梨……」
「分かった?」

 しずは凄く不思議そうな顔をしていた。
 俺はその視線に気付かない振りをしてチーズをかじる。

「……お前、そんなに頭よかったか?」
「さぁ」

 俺が、学校の勉強はからきしだった事を指しているのだろう。

「で、何でその折原臨也を追ってたわけ」
「……あいつを見ると、苛々するんだよな」
「……は?」

 思わずチーズを落としてしまった。
 ――なに、何て?

「苛々……?」
「……あぁ」

 聞き返さればつが悪くなったのか、返事は随分と小さな声だった。

「何それ……苛々するから、標識持って折原臨也を追ってたって事?」

 ――あんた、それ。
 しずを昔から知っている俺でも呆れた。

「ね、しず。それは変質者、またの名をストーカーっていうんだよ」
「はぁ!?」
「だって、そうじゃん」

 家を知っているところからしてそうとしか思えないんだが。

「まぁ……しずがそこまで嫌って言う人も珍しいし。もし会ったら何とかしとくよ」
「何とかって……」
「例えば殺すとかね」

 いや、これはあくまで『例えば』の話である。例えば。
 しかししずは予想以上に驚いた表情をしていた。

「あのねぇ……。俺がそんなに分別なく見える?」
「初めてそう思った」
「失礼だな」

 しずこそ標識を持っていたなら、殺すつもりじゃなかったのか。なのに人にその態度とか。
 新たなチーズの包装を剥がす。……本当、キャンディーチーズって美味いよな。

「あ、そうだ。もうこんな時間だし、折角なら泊まってったら?」
「……いや」

 何で、と言うと、視線を逸らされた。

「明日仕事じゃないでしょ」
「……何で知ってんだよ」
「………………いやぁ」

 まさか、しず宛てのメール全部見れるんだぁ、とは流石に言えない。

「ほら、そうと決まったら」
「決まってねぇだろ!」
「じゃあ一緒に寝ようか」

 チーズと炭酸を冷蔵庫に放り込み、俺は洗面所へ向かう。
 あー……しずが居てくれるなら、今日は久しぶりにゆっくり眠れそうだ。
 きたる睡眠欲に俺は胸を高鳴らせた。


















11-1/12
(……あれ、変だなぁ)
(何だよ)
(全然眠くなんない)
(……遠足前の小学生か手前は)



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