始動! 「あ、今日も出掛けるから」 あのブログを見てから3日、暫く自粛していたらしい外出だが、瀬梨は漸く出掛ける様子を見せた。 俺はいつものように小さく頷く。 「じゃあ、夕食は俺が作っておくから」 「あ、本当?」 ありがとう、と言って瀬梨は小さくだが微笑んだ。 「どこに出掛けるの」 「嫌だな、いつもの場所だって」 「それが気になる」 「んー……」 都内、かな。 そう言って苦笑いする瀬梨。とりあえず「都内」という言葉を知っているのが可愛い。 思わず負けそうになって、頭を少しだけ撫でてやる。 「あんまり心配かけないでよ」 「んー。分かってるって!」 にっこり笑うが、……これ、営業用かなぁ。 どこまで解っているのか分からない。 「あんまり遅くならないようにするからね」 そう言って瀬梨は俺の拘束をひょいとくぐり抜けると、寝室の方へ行ってしまった。 ……何だかなぁ……最近、一緒に寝てもいないような気がする。 とりあえず、共に過ごす時間が減っている。 「……うーん……」 これはやっぱり、本格的に「灰猫教」を調べる必要がありそうで。 「シズちゃんはさ、何か聞いた事ないわけ? 灰猫教について」 「あー……まぁ一応あるが、そんなにたいしたもんじゃねぇよ。トムさんから聞いたとか、何か変な事口走ってる奴らとすれ違ったとか」 「変な事?」 シズちゃんは頭をかく。 「教祖様はやはり素晴らしい、早くあの幸運に与りたいものだ、とか。多分――」 「そうだね」 大きな幸運を持っている者、それを分け与えられる者と考えれば、俺たちが想像するのはたった1人しか居ない。 いや、でも多分、彼は嫌がるだろうな。人に自分の幸運を与えるなんて。 それとも、そんな事ができるわけないとでも思っているのだろうか。 「じゃ、ちょっと見てこようか」 「何をだよ?」 「決まってるじゃん、灰猫教だよ」 思わず低能か、と突っ込みたくなったが、そこはそれ。 「そんな悠長なことしてていいのか?」 「どういう意味かな?」 「一気に殴り込んだ方が早ぇだろ」 「……あのさぁ……だって、間違いでしたすみませんじゃ済まないでしょ」 俺たちの場合、と溜息をつく。 「俺が先に中に入って見るから、シズちゃんは外で待機してて。俺が合図したら中で大暴れしてもらうから」 「大暴れってなぁ……ところで、場所はわかるのか?」 「愚問だね、シズちゃん」 人好きのしそうな笑みをやめる。 代わりに、この先が凄く楽しみだと思うような笑みを――大きな喜びが待ち受けているという期待を、唇に載せた。 「俺の本業、何だと思ってるの?」 ← |