俺が望めばそのように


 そして俺は泥のような深い眠りに落ちて、翌日。
 いや、翌日かどうかさえ分からないくらい眠った気がする――ケータイは確認したから、普通に翌日だったみたいだけど。

「あー……怠」

 寝過ぎると逆に調子が悪くなるというのは、どうやら本当の事らしかった。
 頭が鈍く痛む。……もっかい寝ようかな。
 そう思って、もう一度目を閉じようとした。
 その瞬間だった。

「……ッ!?」

 寝ぼけた頭が一気に覚醒する。昨夜と違う点を認識。
 俺は勢いよく起き上がって、周りの状況をよく確認する。

「昨日……そうだ、昨日は」

 確か、しずと臨也は喧嘩をするために、わざわざ家の外に出て行ったんだ。そうだ。
 だから昨夜の時点で彼らがベッドに居るわけがない。俺は勝敗を知る前に寝てしまったのだから。
 ――そうしたらそりゃ、このダブルベッドに3人が一緒に寝ているなんて、不思議でならないよな。

「おーい……? 君たち、それで結局結果はどうなったの?」

 眠りまくっているしずと臨也に声をかけてみる。

「家……は、ここに居る限り大丈夫そうだから、外が酷いのかな?」

 そうだ、今日は腰が平気だ。
 だったら自分の目で見てみよう、とベッドから下りる。

「……起きる気配はないし」

 一体どんな喧嘩をしてるんだ、と思いながらカーディガンを羽織って外に出た。






「……何したんだ? あいつら」

 上。――薄寒い中、外に出た俺が発した第一声。
 外は俺に分かる範囲では、昨日と何の違いも認められなかった。
 わざわざ外に出て行ったのに、何も壊さないで帰ってきたのか……?
 いや、世界が平和なことは、この上なくよいことだけれども。

「ここまで平和的な解決って……前代未聞じゃないか」

 もはや誰に聞いているのかさえ分からない。疑問符はもう要らない。
 もしかしたら俺の目には分からない程度で変化したのかもしれない、とか思ってしまったから。

「何で……本当に、何で?」
「それは、瀬梨が平和的解決を望んだからだよ?」
「え?」

 振り返ると、そこにはいつの間にか臨也が居た。

「い、いざ、いつの間に――」
「俺達は瀬梨が笑ってくれるなら何でもいい、って昨日気付いた。だから俺達が昨夜したのは喧嘩じゃなく、話し合いだよ」

 見れば、臨也はすっかり着替えている。いつものファーのコートではないけれど。
 俺がベッドを出る時見た姿は違ったから――本当はあの時起きていて、高速で着替えてやって来たと考えるのが妥当だろう。

「双方に条件付きのね――聞きたい?」
「……いや別に」

 双方に条件付きなら。どういう類のものかは知らないが――裏切る事はないだろう、きっと。
 ていうか――何か、嫌な予感するし。

「あ、そう。でも瀬梨、ここは冷えるよ。早く戻ろう」
「……うん」

 ――けれど。
 そういえばあんなにしずは怒っていたのに、臨也はそれすらも懐柔した、いやできたのかなぁ、と思うと何だか不思議だった。










(彼らは仲良くなろうとしている?)
(いや――仲良くしているのか)



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