便利な店へ行く道すがら


「あ、しず」
「……何やってんだ手前は、こんな時間に」

 しず、またの名を平和島静雄というその人は、標識を持って立っていた。
 俺は財布を持ち、サンダルを突っかけたままの格好で彼と出会う。

「いや、お腹空いたから、買い物行こうと思って。この間しずに貰ったチーズ全部食べちゃったから」
「……俺は、手前にチーズなんて遣った覚えはねぇぞ」
「えっ、そうなの?」

 でも宅急便の差出人は確かしずの名前だったよ、と俺は首を捻る。
 んー……しかし、それも数日前の話である。
 そんなどうでもいい事は、さっさと忘れてしまうに限る。

「ていうかしずは、何してんのさ。ここ俺の家なんだけど」
「……は?」
「まぁ、俺が所有してる家、ってのが正しいかな」

 俺の所有しているマンションの前で平和島静雄が標識を持って立っている――なんて、明らかに怪しいシチュエーションだ。

「ちょっと、頼むから、壊さないでよね。ここのマンション、意外と貴重な資金源」
「ここのマンションに、折原臨也って奴が住んでるだろ」
「は? 折原……何だって?」

 オリハライザヤ、と言われた。……何だ、『イザヤ』って? 聖書?
 しかししずの表情がそんなによくないところを見ると、あんまり善い奴ではなさそうだ。

「お前、新宿に住んでんのにそんな事も知らねぇのか」
「俺、池袋育ちだし」
「尚更だよ」

 ……池袋と新宿に関係のある人、ですか? そして多分、危ない人。
 俺はうーんと首を捻った。

「……はぁ。考えてたらお腹空いてきちゃった。ねぇしず、話なら俺の家で聞いてあげるから、今は標識置いといて」
「でも――」
「よーし、れっつごー!」

 俺は深夜にも関わらずわざと大きな声を出して、しずの手を掴み走り出した。
 ――多分、今マンションから覗いているのが、『折原臨也』だ。
 しかしそんな事は気付いていない風に、俺はコンビニへ向かった。


















11-1/10
(んーと、これとこれとこれと……)
(……そんなに買うのか?)
(だって腹減ってるし! あっそれ取って!)
(…………いくらになるんだ、これ)



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