そうして時はやってくる


 そうして日々はだらだらと過ぎ去っていった。
 新宿に行こう、と恋人に誘われた日以外は家に篭り切り。
 本を読み終わったと言えば買ってきてくれるし。
 俺は今、気高きニート生活を最高に楽しんでいる。



 ――筈だった。






「な、何でしずが此処に!?」
「うるせぇよ」
「ちょっ、何すん」

 ベッドに呑気に寝転がっていたところを。
 後ろから捕らえられた。
 ……ちょっと待って、ここ臨也の家なんだけど?

「お前は……本当に、ノミ蟲と付き合ってるんだな?」

 しずは知っているかの様に聞く。
 いや、それは疑問というよりも、単なる確認でしかなかったが。
 そこで肯定を示せば彼の怒りを買いそうで、しかし否定でも同じ結果な気がして、俺は結局――

「俺、しずの事好き」

 と。
 本を開いて寝転がったままの間抜けな状態で、背後に居る筈のしずに言った。

「……は?」

 案の定。
 怒っていたのが、無理矢理怒りを鎮めたような声で。
 感情の読み取りにくい声でしずは答えた。

「俺、色々考えたんだあれから。で、俺は臨也も好きだけど、しずの事大好きだって」
「……だって、シズちゃん」
「……瀬梨、お前……」
「はぁ!? えぇっ!?」

 がばり。背中に載っていた人物を背筋だけで落とす。……いや違うか。
 とにかくそんな簡単に落ちるのがしずなわけがない。
 振り返ってみると――

「い、臨也!?」
「瀬梨の事だから、もっと簡単にバレるかと思ったんだけどね」
「何が!」

 ――何がどうしてこうなったんだろう!

「聡明な瀬梨君なら分かるよね?」
「え……えーと」

 両手を後ろで臨也に捕われるのを感じながら、口を開く。

「つ……つまり、初めに入ってきたのは臨也で、喋ってたのはしずって事?」
「ぴんぽーん。流石瀬梨」
「馬鹿!?」

 勢いをつけて跳ね退けようとしたものの――手を取られているので全てが無駄に終わった。
 背筋を使ったもののぎゃあと叫んでまたベッドに戻る。

「何考えてんの! そうやって俺を騙して、一体何の得が――」
「今、いい事聞けただろ?」
「むぐっ!?」

 口を塞がれた。
 同時に――背中に重みが更にかかった。
 首を横に捩られ、

「ん――ふ、ぅ」

 唇を貪られた。
 首が無理矢理捩られているのだ痛いに決まっている。
 しかしそんな事など構わないかのように、目の前の男――臨也は、いいように舌を捩込んできた。
 酸欠と首の痛さで、俺が臨也の舌を甘噛みするまで。

「……っ、はぁっ……」
「はは、瀬梨、いい味するよね」
「っ、意味分からん!」

 ――もう、何回目だろう。俺は臨也に弄ばれている気がする。
 背骨がミシミシする。
 しず怒ってんのか? ……俺のせいじゃないけど。

「そういえば……瀬梨って、シズちゃんの事足音で判断できるんだ?」
「え? 足音ってか……ん、まぁ、そうだね」
「妬ける」
「何が!」

 ……こいつは間抜けなのかもしれない、うん。

「ていうかしず、お前も何か言ってやれよ!」
「……お前は、こいつと付き合ってるんだろ?」
「……は?」

 『お前』と言った。
 前のような怒りは収まっていると感じたが、それは相変わらず表情の読めない声で。
 寧ろ言動にいたっては酷いの一言でしか言い表せないのだが。

「いやそれは、確かにそうだけど」
「だったらいいだろ。勝手に何でもしてろよ」

 カチンときた。

「だったらしずは何でこんな所まで来てんだよ! わざわざこんな所まで何しに来たんだよ!」

 俺の事好きなんじゃないのか、と喚いてみせた。
 ――やるな、俺。
 これで「やっぱ嘘」とかだったら痛いぞ。

「……っ」

 ……って、あれ?
 しずからの返答がなくて、しかし身体を捻る事もできなくて俺は上下にじたばたと暴れる。
 嗚呼――俺、本当に痛いよ。女神様、俺を見捨てたのでなければどうかお助け下さい。

「……シズちゃん、」
「やっぱ俺――お前の事好きだ」
「はっ!?」

 いきなり解放されて全身が痛い。
 ……もう、何なんだろう。

「嫌だっ、しず、何すん……!」

 何、って。
 そりゃキスしかないわけで。
 俺は――しずにもキスされた。

「んぅっ……」
「あ、狡い、シズちゃんも瀬梨にキスしてる」

 馬鹿だ、お前が先にキスしてきたんだろとか思うが反論はできない。何故なら口を塞がれているから。
 でも、そのキスは嫌なもんじゃなくて……こんなんだったら人を好きになるのも悪くないな、とか思ってしまった。不覚だ。
 ――別に、臨也とのキスが嫌だとかって言ってるわけじゃないけど。
 とにかく。

「俺もする」

 なんて臨也が言い出して、首筋に唇が触れるのを感じた。
 くすぐったくて意識が逸れる。

「おい、ノミ蟲邪魔すんな」
「何言ってんの。瀬梨は俺の恋人だよ」
「……前言撤回しろ」

 唇を離してしずは言った。

「俺もお前が好きだ」



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