海鮮鍋の誘惑


 どうしてそんな風に思う?
 君が、気に病む必要なんてないのに。
 全てはシズちゃんのせいだよ。
 なのに、どうしてそんな悲しそうな顔をするの。

 そうか。
 俺がシズちゃんを嫌いだから、貶しめてると思ってる?
 でも、残念ながらそれは間違い。
 だってあの人は本当に変わってしまった。

 変化を望まないなら。
 誰とも関わらなければいい。
 必要以上に踏み込まれる事が怖いなら。
 最初から拒否すればいい。

 でも君はそんな事しないでしょ?

 君の事を知りたくなる。
 深くまで入っていきたくなる。
 不完全であるが故に。
 拒まれるが故に。
 もっと知りたいと思ってしまう。
 君はやさしいから、断らないんじゃないかとさえ思ってしまう。

 ……辛い?
 誰からの愛も受け入れられない自分が。
 君はどうしてそんなに拒むの?
 本当は、誰より求めてるのに。

 君が俺を理解できないように。
 俺も君を理解できない。
 シズちゃんだって同じだから。

 見せない限り解らない。
 見せるのが怖いなら解り合えないよ。



 ねぇ、瀬梨?






「お早う、瀬梨。もう夕食の時間はとっくに過ぎてるけど?」
「……んぅ?」

 一筋、暗かった部屋の中に光が差す。
 それは真っ直ぐに俺の方に向かってきていたから、眩しくて思わず眉をしかめた。

「変な時間に起こしてごめんね。ご飯食べたら歯磨いて、また寝ていいから」
「……うん」
「よし」

 仰向けになるよう寝返りを打つと不意に抱き上げられる。
 予想の範囲内だったが――それでも驚くのは当然の事で。
 思わず目が覚めた。

「い、いざ……」
「大丈夫。落としたりしないから」

 暴れたりしなければね、と言われたので首に腕を回して大人しくする事にする。

「偉いね」
「……別に」
「可愛いな、瀬梨は」

 ちゅ、と首元にキスをされた。
 くすぐったくて身をよじる。

「ねぇ、今日のご飯ってなーに?」
「鍋だよ」
「わぁ、マジで?」

 鍋なんて、1人だったら殆どしないわけで。
 そういえば前に食べたのは、確か――なんて思い出して。
 口をつぐんだ。

「……瀬梨? どうしたの?」
「……いや……」

 この間、宝くじを使って食べた料理が鍋だったなんて――しずに奢った物が――思い出したくなかった。

「俺、辛いの食べれないよ。知ってるでしょ?」
「知ってるよ。だから海鮮鍋」
「わぁ!」

 別に……だからといって、大トロは欠片も関係がないと思うのだが。
 臨也は笑っていたので、俺は口をつぐんだ。








(思い出すな)
(俺は今、)
(誰と付き合ってるかを考えろ)



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