出会う事が怖かった


 本屋は意外と閑散としていて、居心地がよかった。

「こんな場所も知ってるんだね、臨也は」
「……俺を何だと思ってるの?」

 ――そういえば臨也は、情報屋なんだっけ。
 まぁそうでなくとも、普通自宅周辺の施設くらいは把握しておくだろうが。

「……本は、いいよね」

 こちらに語り掛ける事がない。
 ただ、自身の持った知識を与えてくれるだけだ。
 口の過ぎる博識よりずっとマシである。

「煩くないから――」
「誰が煩いって?」
「ッ!」

 不意に聞こえた声。
 この声は――不機嫌を通り越した時の。
 耳元で、同じ声で囁かれる。

「し、しず――」
「動くんじゃねぇ。……手前は何であいつと一緒に居るんだ?」

 しずが俺にこんなに怒る事は今までなかった。
 ――勿論、『手前』なんて言われた事はない。
 それが余計俺を混乱させていた。

「それは……その、」
「瀬梨ー! そろそろ帰るよ!」
「!」

 しずは舌打ちをする。

「本屋を壊したくはねぇから、俺は帰る」
「しず……」
「いいか? 誰と付き合うのも手前の勝手だが、その分だけ周りに影響与える事を覚えとけよ」
「え……?」

 しずはそのまま俺の手を放し帰っていく。
 手を掴まれたことさえ忘れる程に――今のしずは、『恐怖』だった。
 程なくして臨也が姿を現す。

「臨也……」
「シズちゃんと喋ってたでしょ。勝手な事しちゃ駄目だよ? 瀬梨」
「え――」

 何で。
 何で何で何で。
 気付かれてた?

「じゃなきゃさぁ、俺あんな大声出したりしないよ」
「あ……」

 そうか、いつかの俺と同じだと、そういう事か。

「面白そうな本は、買っといてあげたから。ほら、帰ろう」
「……うん」

 俺は憂鬱な気分のまま、臨也に手を引かれて帰っていった。










(どうしてだろう)
(しずに掴まれた手が熱い)
(――俺は)



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