ある些細なきっかけ


 それからというもの、俺は意識的に折原を避けるようになった。
 勘で避けているのだが、後で噂を聞いてみると確かに居たりとか。
 女神様はやはり俺の味方だった。

「……俺、こんなに折原嫌いだったっけ」

 俺は始め、折原に負の感情を持っていただろうか?
 しずから聞いた印象は確かに宜しくなかったが、そこまでだっただろうか。
 どこから変わったのかというと―

「……やっぱ、折原のせいか」

 どう考えたって数日前の事件のせいだし、自業自得だろう。

「よし、考えるのやめっ。寝よ」

 仕事は終わった。アルバイトも色んな意味で終わった。
 眠たい時には寝ればいい。
 ……そんな生活をしてみたい。






 池袋は相も変わらず煩くて。

「しずは、こんな街に住んでるのかぁ」

 今更だが。本当に。
 池袋で育っておきながら、あの化け物と仲良くしておきながら、俺は本当に何も知らなかったのだと知る。

「……でも、楽しくはない、よね」

 非日常が日常になりつつある街なんて俺は嫌だ。
 金髪のバーテンダーがごみ箱や標識を投げている風景が当たり前になったら、それこそこの国はおしまいな気がする。

「……好きで投げてるわけじゃないんだろうけどねぇ、しずも」

 でも今日は、1日きっと家だ。久々の休みだから。
 そしてそんな休みをぶち壊すかのように、俺は行ってやろうと思う。

「今日はいいしなぁ、」

 機嫌ではなく、調子だが。










(今ならしずも騙せそう!)



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