もはや二日酔いとは言えない


 二日酔いは結局3日目まで尾を引き、完全に治り切るまで、俺はしずの家にお世話になった。






「しず、ごめんね。随分お世話になっちゃった」
「いいけどよ」

 ちなみに2日目、酒を飲んだ日から数えて3日目だが、その時点では既に元気だった。
 しずが居ても良いと言ってくれたから居ただけだ。

「じゃあ俺、帰って仕事でもするかな」
「……確か、締め切り近いんじゃなかったか?」
「そう、明日」

 玄関先で、にっこり笑う。

「でもねぇ、しずと一緒に居たから元気出たよ! 仕事なんかすぐ終わっちゃう!」
「瀬梨、」
「またにゃあ!」

 手を振って、走り出す。悪い人に捕まってはしょうがない。
 先程から周りでうろうろしている奴が居たように思うのだが――まぁ、大丈夫だろう。

「何たって俺には、幸運の女神がついてるわけだし!」

 大きく伸びをし、跳ねながら新宿の我が家へと向かった。






「やあ、お帰り」
「あれ、何で居るの?」
「鍵は開かなかったから、勝手に開けさせてもらったよ」
「へぇえ」

 ソファーに座った見知らぬ隣人を見下ろす。

「何しに来たの? そもそも俺の家知ってたっけ」
「失礼だなぁ、君が二日酔いの時に介抱しに来たのに」
「……うん?」

 ――だとすると。

「ベッドまで運んであげたの、俺なんだけど」
「だったら、やっぱり……あのさ、何でそういう地味な事するわけ?」
「地味ってどういう意味かな?」
「せめて、俺が起きるまで待ってればよかったのに」

 愚問だと言いたげに笑う。

「そんなの、つまらないでしょ。起きてるまで待ってたら確かに君は俺だと分かる。でも、寝ている間に居なくなったのに分かったら、それは運命」

 ……何だか、悔しい気がする。
 俺、そういえば、分かりかけたんだったなぁ。
 相手の策略に乗せられたなんて悔しい。

「意味分かんない。さっ、帰って」
「え、何で?」
「どれくらいここで待ってたのか知らないけど、俺に会えたなら満足でしょ? ほら、」
「――2日だよ」
「え?」

 折原は俺のソファーで足を組んだまま、薄く笑んだ。

「従順でしょ? 俺、2日間もずっとここで待ってたんだよ」
「いや、それ、従順っていうか、」
「だから、ご褒美頂戴よ」

 瀬梨ちゃん、と耳元で囁かれて。

 嗚呼、それはストーカーか変質者と云うのだと、教えてやりたかった。








(もしかしなくても)
(――大ピンチ?)





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