I want to awake next to you.


「……あ」

 目が覚めて、昨日の事が何1つ思い出せなくて、頭が痛くて、少しずつ思い出して。
 そういえばしずと寝たんだったと身体を起こした時、隣は既に、冷えていた。






「仕事……か」

 無理もない。俺が起きたのは2時だったから。
 昨日遅くまで呑んでいたのは間違いない。深酒だった事も。
 だって、天井がぐるぐる回ってる。
 どうにかリビングにたどり着いて置いてあったメモを読んだら、かなり前にしずはここを出たらしい。
 ……申し訳ない事をしてしまったと思う。

「あー……具合悪……」

 ソファーの背にもたれながらずるずると床に座り込む。
 とてもじゃないが、歩く気になれない。少しでも動いたら吐きそうだ。
 ――このまま、眠ってしまえればいいのに。

「水……飲みたいなぁ……」

 しかし今の俺には、水を飲む事さえかなわなくて。

「……しず……」

 流石にこんな時間まで居てくれというのは酷だったろう。申し訳ない事をした。
 俺は弛緩した身体をゆっくり床の上に横たえ、本日2度目の惰眠を貪った。






 記憶が無かったわけではない。
 確かに酒を呑めば、すぐに意識をなくしてしまうけど、それでも記憶が介在しない事はない。
 昨夜、折原という人に初めて会って、凄い喧嘩を見せてもらって。
 だから2年前に当たった、凄く貴重な大金で奢って。
 ――勿論、その間に起こった事も忘れたわけじゃない。
 折原がどんな奴か分かったし。

 目覚める前、まぁ、俺の意識がきっと浮上しかけていた時。
 足音が聞こえた気がした。
 誰だろう……?

「あーあ、こんな所で寝ちゃって」

 聞き覚えのある声。――でも、思い出せない。
 夢の中で浮遊、水中で浮き沈みするように、俺の身体はふっと浮いた。






「……ん?」

 頭がガンガンする。喉が猛烈に渇いている。
 最低な気分の中、俺はベッドで何があったかを思い出そうとしていた。

「え――あ、れ?」

 俺はベッドで寝ただろうか。
 襲い来る吐き気に堪えながら、リビングに向かった筈だ。
 ……そして、しずの残した、メモを見て。
 そのまま目を閉じてしまったんじゃなかったか。

「何でここに……?」

 最低な気分だ。けれど昼間より少しマシになった気がする。
 何でここで寝ているのかは分からないが、無意識の内に自力で戻ったのかもしれない。
 そう思いながら、水を飲もうとベッドから下りた瞬間だった。

「お、瀬梨、起きたか」
「〜〜……っ! しず!?」

 驚く程、驚いた。

「な、んで、仕事じゃ……?」
「今何時だと思ってんだよ」

 今は9時だと言われ、愕然。
 ……寝過ぎだろ。

「あの、しず……」
「ほら。とりあえずこれ飲め」
「!」

 差し出されたコップには、水。
 深酒で傷付いた胃にいきなり大量の水を流し込むのもどうかと思ったが、コップに並々注がれた水を、俺は一気に飲み干してしまった。

「……はぁ。生き返った! ありがとうしず!」
「いきなり元気になるんだなお前は」
「だってだって、しずが来てくれるとは思わなかったし!」
「かなり酔ってたから、このままほっとくと死ぬかと思ってよ」
「ま、それくらいじゃ俺は死なないけどね!」

 時間は分からなかったし、まさかうちに来てくれるとは思わなかった。
 ……まぁ、このままだったらちょっと危なかったかもしれないけど。
 当然のようにしずにコップを返し俺はベッドに寝転がった。

「……そういや、ここにあいつ来なかったか?」
「あいつって――折原?」
「あぁ」

 名前を出すのも嫌だとでも言うように、しずは眉をしかめる。

「さぁ……俺は、覚えてないけど」
「……そうか」
「なに、誰が来たとか、しず分かるわけ?」
「いや」

 若干、落胆。
 何だ、あんな素晴らしい犬猿っぷりと喧嘩見せられたから、お互いの位置くらい分かるのかと思ったのに。

「なんか、そんな予感がしたっつーか、匂いがするっつーか……」
「え、しずって折原の事匂いで分かんの!?」
「気色悪い事言うなって」

 ――危うく殴られるところだった。よし、折原のネタでしずをからかうのはもうやめよう。

「それより、具合。どうだ?」
「……あー」

 寝転がったままで笑った。

「なんか、さっきまで具合悪かったけど……治ったかも。しず来てくれたから」
「……馬鹿」

 こつんと頭を叩かれる。
 その力はただ優しくて、俺はまた笑ってしまった。







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