鼻先で甘える


「しずと折原の喧嘩、すっごいよかったよ! また見せてもらいたいにゃあ」
「そんな風に褒められても全く嬉しくないけどな」

 高級料亭、個室に2人きり。
 こんな豪華にできるのも、ひとえに俺の運がいいお陰なわけで。

「あんな喧嘩、なかなか見れないし! 今日、2年前に当たった宝くじのお金、全部使っちゃおうよ!」
「宝くじって……どんくらいだよ?」
「んーとね? こんくらい!」

 指を5本立てて見せた。

「その下に0は何個、」
「よーし! 今日は呑むぞ! 女将さん、一番高いお酒持ってきてぇ!」
「ちょ、お前!」

 ふふ、楽しみだなぁ、一番高いお酒ってどんな味がするんだろう。
 ここより安い店で呑んだ事があるし、ここより高いホテルでも呑んだ事はある。
 お酒を呑む時間って、本当至福。

「しずは呑めないんでしょ? ほーんと、残念」

 お子様だと笑う気はないが、下戸なのか、ただの甘党なのか。
 とりあえず勿体ない事だけは分かる。

「この世に在る娯楽の半分以上損してるよ」
「日本語を間違ってると思うが、とりあえず、酒を呑むのをやめろ」
「えぇ、何でぇ?」

 高いお酒はやっぱり、相応に美味しかった。
 嗚呼――幸せだなぁ。俺、この世に生きてて本当によかった。
 瞼がとろんと落ちてくる。

「しず、俺……」
「ほら、帰るぞ」
「えぇ?」

 酒の入ったグラスを手放さない。
 しかし無理矢理抱き上げられ、どうやら連れていかれるらしい。

「嫌だよ、まだ全然呑んでないし、食べてないじゃん!」
「もう十分だろ」
「500万円も全然使ってないし!」
「……そんな額を、今使おうと思ってたのか?」

 散財するなら別の方法があるだろと言われた。

「何……?」
「ていうか、お前は食い過ぎだ。最初に喋り出す前に散々食ってたろ」
「あんなの前座だよ!」

 しかししずは譲りそうにないので仕方なく首に手を回し、グラスを手に押し付けた。

「真っ直ぐ帰るからな」
「うん」

 何だよ、まだまだ食べれるのに。
 けれどこうしてしずとくっついていられるのは嫌ではないので、諦めた。






「じゃあ、俺は帰るぞ」
「え? もう帰っちゃうの?」
「もう?」

 朦朧とした意識の中で手を伸ばし、服の裾を掴む。

「……何だよ」
「……行かないで」

 しずは足を止めた。
 ……いや、実際、さっきから止めていた事には止めていたのだが。
 観念した様に、というか。

「俺、しずに、傍に居てほしい」

 酔いも手伝ってか、俺は呂律が回らないままそう言った。
 ――どこにも行かないでほしいのだと。
 横たえられたソファーの上からじっと見上げると、しずは小さく溜息をついた。

「お前が寝るまで一緒に居てやるよ」
「え……? そしたら朝、1人なの?」
「……それくらい、」

 不安でしょうがなかった。置いて行かれる気持ちになる。
 それならいっそ、最初から居ない方が、マシだとさえ思った。

「……分かったよ。一緒に寝てやる」
「えっ! 本当!?」
「あぁ」

 ただしベッドでな、と言われてもう一度抱き上げられる。
 今度こそ強く腕を回した。

















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