横恋慕


 ある日、俺はアメティストスもといエレフの許に呼ばれた。

「何? ……」

 俺たちは兄弟だ。父と母が殺され、妹も殺された。
 その仇を討つべく、俺たちは奴隷解放軍として戦っている。

「お前、最近オルフと随分仲がいいな」
「それが何? 仲良くしちゃいけない理由でもあるわけ?」

 俺とオルフの仲は公認である、男同士だが、よくあることだ、特にこんな男ばかりの状況では。
 逃げ出す前に働かされていた場所も男たちばかりだった、だからそういうのは少なくなかった。
 愛しいと思うのだから仕方ない。生産性は全くないが。

「ああ」

 何を、と思った瞬間、唇を塞がれた。
 俺はエレフを突き飛ばす。

「お前っ……何すん、」

 だがエレフは、それでも多少よろめいたくらいだった。
 そして今度は、強く抱き寄せられ、唇を奪われた。
 胸を叩いたりしてみるが、一向に反応が現れない。それこそ憎たらしいくらいに。
 舌を入れられ、拒否できない内に酸欠になる。

「ん、ぅ……っ、は、あっ……」

 その後も、何度も角度を変えてキスをしてくる。
 何で応えてるんだろう俺、と思うが、頭の芯が痺れたような感じがして、上手く物事を考えられない。

「……何、すん……」
「好きなんだよ、お前が。俺はお前が欲しいんだ」
「……は?」

 エレフの腕の中で、間抜けな声をあげる。

「何言ってんだよ……お前、俺がオルフと付き合うって言った時、嫌な顔しなかったじゃん」
「本音と建前は使い分けるものだろ。それに、あそこでバレるのも面白くなかったし」
「……どういう意味だよ」
「そのままの意味だ」

 エレフは意地悪く笑う。……いつからこんな性悪になったのだろう。
 昔はもっと可愛かったのに。

「お前が俺のことを好きなのなんて、バレバレだったからな? お前は上手く隠してるつもりだったのかもしれないが」
「ッ! な、何で――」
「俺を諦めるために、オルフと付き合ったんだろう?」

 俺は何も言えなかった。だがこの場合、沈黙は肯定だ。
 エレフは俺を越えてその先を見た、俺も思わず振り返る。

「……?」
「今の、オルフが聞いていたみたいだ」
「な……っ」
「安心しろ、あいつのことだから、最初から分かっていただろう。お前の気持ちも、俺のことも」

 だとしたら……。絶句した。
 分かっていたのなら、いつか居なくなるかもしれないと思っていたのだろうか、最初から。
 相手の心の中には自分以外の男も居ると分かっていて、付き合っていたのだろうか。

「……だとしたら、俺、最低じゃん」
「そうかもな」
「俺、どうしたら……」

 そもそもこんな場面を見られたんじゃ言い訳できない。言い訳はよくないが。
 謝らなければいけないと思った。同時に他の人も想っていたことを。
 だが俺は、オルフのことが嫌いだったわけではない、決して。

「大丈夫だ、俺が貰ってやる」
「……へ?」

 エレフは笑う。

「最初からそのつもりだったからな。横恋慕の方が面白いだろうと」
「……っ!」

 前言撤回。
 一番謝らなければいけないのは、こいつだ。







(オルフ!)
(どうしたんですか)
(あの……その。さっきの、見てたのか?)
(……あまりのぞき見は感心されませんが、そうですね、見えてしまいました)
(そっか……ごめん、な)
(何で謝ってるんですか)
(だって……)
(あなたは騙してたと思ってたんですか? 俺は気づいてたんで、あまりそこら辺のショックは受けてないですが)
(……! 知ってたのか!)
(あれで分かるなという方が無理です。……まあ幸い、俺はあなたのことが好きでしたし、嬉しかったですけど)
(……俺も、好きだからな? 今でも)
(……それは、俺も参戦していいってことでしょうかね?)
(は?)
(まあ、将軍閣下だけにおいしい思いはさせません。せいぜい俺も頑張らせてもらうとしますよ)
(えっ、ちょ……オルフ!)






12-11/14
本当はエレフだけで終わらせるつもりだったのに、いつから逆ハーに…
「俺が責任取ってやるよ」みたいな人がエレフ以外に思いつかなかった。



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