運命の人


 結局王子は運命の人を見つけられず、城に戻ったとさ。






「お帰りなさいませ、王子様」
「久しぶりだな、レイシ」

 何年振りの再会だろう。
 運命の人を捜す、とか言って従者を3人だけ連れて、出て行ったあの日がひどく懐かしく感じられる。

「今回の旅は如何でしたか?」
「反省したよ。僕は愚かだったと」
「え?」

 王子の放った物を拾い上げながら俺は聞き返す。
 愚かって……今口にしたのは、本当に王子なのだろうか?

「運命の人だなんて、捜すものじゃない。生きてる内に出会えるのさ」
「……はぁ」

 マントを摘み上げ、首を傾げる。

「だとしたら王子様、来月の式ではどなたと結婚なさるのですか?」

 確か王子が飛び出す前に、王は言った筈だ。
 誰が相手であろうとも必ず式は挙げる、だからお前が飛び出して行っても関係はないと。
 ――誰と結婚するのだろうか。
 王子はあれ程、王が決めた相手と結婚するのは嫌だと言っていたのに。

「君だよ」
「はぁ…………はぁ!?」

 手に持っていた全てを落とした。

「何をおっしゃるのです王子! 私はただの召使ですよ! 冗談でも言っていい事と悪い事が、」
「冗談なわけがないだろう」

 レイシの本音を聞かせてくれ、と。
 その王子の瞳があまりにも真剣だったものだから。

「わ――俺、は、」

 何コレ……これってもしかして、もしかしなくてもプロポーズ?
 あまりにも突然の事で、頭がついていかなかった。
 ――でも、正気かと問い返せば、また怒られるだろうし。
 悩みながら言葉を返す。

「その……」

 これが嘘だったら死のう。
 からかわれているのだったら生きる事を諦めよう。
 こんな恥を晒して生きられる程、俺は厚顔じゃない。

「……王子、だったら」

 でも。
 もしそれが。

「嬉しいし……」

 嘘じゃなかったら。

「謹んでお受け致します」
「よし!」



 ずっとお慕い申し上げてきたわけだから、死ぬ程嬉しいよ。






「でも、俺でいいの」
「誰でも良いと言ったのは父上の方だ。今更撤回などさせない」
「はは……」

 ……あれ?
 王子ってこんなに、頼もしい方だっけ。

「それに、レイシはもう父上に今までのような敬語は使わなくて済むんだぞ」
「……え、」
「召使をこき使う事だってできる」

 肩を抱かれながら王の許まで歩く。
 ……まさかこんな風になるなんて、誰が予想できようか。
 お父さん、お母さん、見てくれてますか?

「レイシの事は、僕が必ず護ってみせるから」
「え――あ、うん、」

 ちゅうと唇を奪われる、それが初めてではない事に狼狽。





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