荒野のアゲハ蝶


「……どうして、」

 10年もの歳月は、あっという間に過ぎ去った。
 懐かしい……彼とは随分昔に出会った事がある。
 あの頃は自分もまだ、一族の長の子供という自覚がなかった。

「……あなたが、好きだから」

 彼は振り返りもせずに言った。

「どうして……だって、僕は男だ!」
「そんなのは関係ない。僕はあなたが好きなんだ。……おかしいと、笑われてしまうかもしれないけど」
「……そんな」

 まさか。笑う筈がない。
 ぎゅっと目を閉じて、首を横に振った。
 ――嗚呼、彼が僕を連れて逃げてくれたら、どんなに幸せだろうか。

「……レイシ」
「え、」
「僕はあの邪神を封印します」

 強張った身体は動かなかった。
 満足に言葉を紡ぐ事もできない。

「――もし、僕が死んでしまったら、その時は、あなたが僕のことを覚えていてほしい」

 ……なん、で?

「あの時、出会ってからずっと好きだった事……覚えていてほしい。僕があなたを好きなのは永遠に変わらない」
「……僕も、」
「え?」

 彼の右手の甲が光った。
 嗚呼……あれが、雷神の紋章か。
 僕にも在る。……同じだ。

「僕も出会った時から好きだった。死なせなんてしない!」

 どれだけの戦士が倒れたのだろう。この村の強い者達が。
 僕らで敵うのだろうか? ――それは、分からないけれど。
 彼が言うのだから大丈夫。
 僕達は未来を紡ごう。

「大丈夫。1人じゃ耐え切れない力でも……きっと、2人なら大丈夫だから」
「……レイシ、」
「僕は信じる」

 ぎゅっと、彼の左手を握りしめた。
 神様、カミサマ……いらっしゃるのならどうか僕の最初で最後の願いを叶えて下さい。

「……うん!」

 行こう、レイシ。
 その言葉に願った。



















10-9/19
主人公君のお名前が不明。でもどうしても書きたかった



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