「……はは」
渇いた笑いを残して、俺はその酒場を後にした。
大切な人を奪った奴……漸く見つけて、復讐したというのに……。
この満たされない気持ちは何だろう?
「レイシ!」
振り向いた。
俺を見つめ返す青い瞳が、恐怖に揺れたのを見る。
「……俺の事がまだ好きなら、一緒に来いよ」
俺はまだ、お前が好きだ。
村が襲われて、2人がバラバラになった、あの時のように……。
沈黙の支配していた酒場がにわかに騒がしくなる。
「さぁ、レイシ!」
彼を殺した俺。殺人犯と話したレイシも無事では済まないだろう。
だから、逃げようと。
差し出した手を握り返してこないから、手を奪うように掴んだのに。
「いやっ!」
「!?」
レイシは思いきり振り払う。
「何を――」
「違う……お前はローランサンじゃない。俺の知ってるローランサンはもっと優しかった」
「……何言って、」
「俺のローランサンは、人を殺したりなんてしなかった!」
――嬉しい言葉だ、と思う。レイシは俺を好きで居てくれたんだ。
でも元はと言えば、一緒に逃げなかったレイシが悪い。
「残念だよ……レイシ」
「…………」
悲しかった。でも、一番不幸なのは俺じゃない。
レイシも分かっている事だろう。俺は確かに、あの時一緒に逃げたローランサンだと。
――けれど、信じたくないとも、思っている。
俺を好いていてくれたから。
「俺は――」
踵を返す。復讐は果たしたけれど、捕まるわけにはいかない。
さよなら――上手く逃げて、またどこかで会おう、レイシ。
俺は黒い剣を手に持ったまま、酒場を後にした。
彼の死を知ったのは、それから幾日もしない内だった。
彼は自ら殺人について話したらしい。
馬鹿な人――俺と一緒に逃げていれば、幸せになっていた筈なのに。
それでも彼の死以来、俺の周りはすっかり平和になった。
――まさかとは思うが、彼が……。
「……そんなわけ、ないよな」
彼は確かに優しかった。
孤児達の住む修道院で、俺達はいつも一緒に遊んだ。
あの時から……俺は、お前の事……レイシ……。
「――だったらお前は、本当に、馬鹿だ」
ツ、と一筋、頬を伝った。
10-9/25
(俺の罪を、かぶる意味なんて)
(どこにもないからな? レイシ)