誰も救えない


「なぁ、オルフ」
「はい?」

 オルフの膝の上に頭を載せたまま俺は言う。

「――この戦いが終わったら、結婚しないか」

 ずっと考えていた事。例え死亡フラグでも。
 オルフは何も言わずに俺の方を見ていた。

「もう駄目なんだ、俺。――お前の事、好き過ぎんだよ。お前が居なきゃ、生きてけないと思う」
「……それは、光栄ですね」
「だろ?」

 くすりと笑う。――だって、いつまでこうしていられる?
 明後日には王都に乗り込むと、先程将軍が発表したばかりなのに。
 明日は多分、痛い程張り詰めた空気が軍を覆う筈。……ならば、今だけは。
 今だけは幸せに生きよう、生きて帰ってこられるか分からないから。
 皆、そう思っているように感じられた。

「――別に、願いは、叶わなくたって良いんだよ」

 夢は見るだけで幸せだから。

「だから……オルフ、今だけ……」
「レイシ、」
「うん」

 シリウスの腰の辺りに手を回して、ぎゅっと抱きしめた。
 幸せなんだ、これだけで――いつ死ぬか分からない俺達は。
 奴隷の時に失った大切な時間を、取り戻すように。

「――幸せなだけで、いい」

 普通を求めて、涙を落とした。






 戦いの時は将軍の傍に居ないようにと、オルフに釘を刺された。
 将軍の傍に居れば命は危うい、とも。

「……ご忠告どーも」

 俺にとってオルフは大切な人だ。誰よりも。
 色を失った俺の世界を色付けてくれた。
 ――でも、俺にとっては、将軍も大切なんだ。俺を奴隷という鎖から救ってくれた人。
 誰も捨てられない、優柔不断でごめんなさい。

「――行こうか、アメティストス」
「あぁ」

 良いのか、と将軍は言わなかった。きっと分かってくれているんだろう。
 命を投げ出す訳ではない事を。

「復讐を――!」

 ――俺は、皆を、救いたいんだ。
 遠くで戦うオルフを想い、俺は剣を握り締めた。













(――結局は誰も、救えないのにな)



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