死因


18禁/死ネタです。










「は……ぅ……っ」

 息を詰めて、腰を振る。傍から見れば、滑稽だと知っていても。
 俺の下で、突き上げながらも笑う男は、異常に綺麗だった。

「あっ、あ、んっ」
「……レイシ、」

 とぎれとぎれに名前を呼ばれる。これ程嬉しい事が、他にあるだろうか。
 代わりに俺も呼び返せば、体内を埋める質量が更に大きくなった。

「は、あぁっ」

 いいんだ、与えられる快楽ならば激しい方がいい。
 俺が二度とあなたを忘れられない様に、深くまで楔を打ち込んでほしい。
 ――俺はいつだって求める側で、今も彼を、狂おしい程求めていた。

「あ……アメ、」
「くっ……レイシ……っ」

 幸せだ。繋がったまま、イくだなんて。
 彼に体内のある一点を貫かれた瞬間、俺の身体は弾ける様に跳ね、2人ともに白濁を吐き出した。






 そして――世界は暗転する。






「……?」

 瞼をゆるゆると引き上げると……そこは見知らぬ場所だった。
 何故? 俺は、白い天井の部屋で眠っていた筈だ。
 ここには白い天井がないばかりか、頭上には、底知れぬ闇が広がっていた。

「オ早ゥ息仔。目覚メハドゥダ?」
「は――?」

 ……この人は何を言っているんだろう。あぁ、気持ち悪い。
 起き上がった俺の肩に、後ろから手を置かれたのだった。

「誰……?」
「θハ冥府ノ王」
「え――」

 冥府の王、だって? 何故そんな人がここに居るんだ。
 けれど空を仰いだ瞬間、分かった気がした。
 俺は――そうか、死んだのだと。

「俺は……死んだんですね?」
「物分カリノイィ……ソノ通リダ。ォ前ハ死ンダ」

 俺の記憶。僅かに残ったもの。
 手繰ればそこには、愛しい人と共に過ごした、最後の夜の記憶しかなくて。

「……俺は、いつ死んだんですか?」
「知リタィノカ? 無意味ナ事ダト知ッティテ」
「これすらが無意味な事なら、この世のどこにも意味の有る事など存在しません」

 ――俺は、好きな人を悲しませてはいないかと、思っただけだ。
 奴隷軍の将軍、しかし誰より優しい人。
 争いを憎みながらも、彼にはその選択肢しか残されていなかったのだ。

「……腹上死」
「はっ?」
「ォ前ノ死因ダ」

 俺は理解できず、数秒の間冥府の王と名乗る彼を見つめていた。
 ――腹上死、だって?
 だったら、それはまるで……。

「……はは」
「何ガ可笑シィ?」

 むすりと不機嫌そうな彼も、今の俺は抱きしめる事ができた。

「だって、だって……そしたら俺は、幸せなんじゃないか! 愛する人との行為中に死ねるなんて! あいつは悲しむかもしれないけど――でも、いずれ忘れてくれる!」

 ――自分が、行為中に殺した相手を? あぁ!
 奴隷としての記憶から始まった俺の人生だけど、終わりは意外と幸せだったんだ。それはよかった。
 ごめんよアメティストス……でもあなたの事、誰より愛していたよ。

「――で、何故俺は、こんな所に?」
「ダカラ、死ンダカラダ」
「違う」

 他の人が全くいない事に疑問を覚える。

「ここには、俺とあなたしか居ないように思えます。……死んだら此処に来るというのなら、何故他の人は居ないんですか?」
「……聡ィナ……」

 憎々しげに呟かれた。
 ――何か、悪い事でも言っただろうか。

「シカシ、ソレナラ話ハ早ィ」
「はっ……?」

 ぐい、と押し倒されて、地面と後頭部が荒々しい出会いをした。
 ――痛い。
 勿論俺にのしかかっているのは、先程まで俺の前に居た人物だ。

「スマナィ、θハドゥシテモォ前ガ欲シカッタノダョ」
「……俺が……?」
「レイシ」

 θノ息仔ノモノダッタ時カラ。
 そう言われて変な気分はしていたが……そうか、彼は俺を知っている。
 アメティストス――俺が唯一愛した人を通して。

「……俺が、生涯で唯一愛すと誓った人を通して?」
「ォ前ガドゥ思ォウト関係ハナィ。ォ前ハモゥθカラハ逃レラレナィノダョ」
「ずるいなぁ。……残酷だ」
「ォ前モジキニ慣レルダロゥ」

 慣れたくはないよ。俺は、アメティストスだけを感じていたい。
 ――しかし、彼の落としてきたキスは、誰よりも『その人』のそれに似ていた。
 驚いているのを悟られてはいけない……弱みに付け込まれる。
 ふると首を横に振って、歯列を開き舌を差し出した。

「……似ている、だけだよ」

 アメ、俺はあなたの事を忘れた事はないから。
 腹上死だなんて忘れられないだろう……嬉しい。

「ィツマデソゥ言ッティラレルカ、楽シミニシティルゾ」

 彼の手つきはどこまでも優しく、服を脱がす動作も、まるで彼と一緒だった。

























10-9/20
アメ、なんて呼んでたらいい



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