暖かな部屋で目覚める。
――これは、夢ではない。そうだ。
奴隷の頃を思うと何だって疑ってしまいそうだが、少なくとも今、手にしている温もりだけは、真実だと信じられて。
(……殿下と繋がっちゃった、なんて)
冗談じゃない。只の奴隷である自分が。
いや――今は過去形なのか。
昨夜の激しい事を思い出して、自身の身体が軋むのを覚えると、それすらも真実だと漸く分かった。
自分が奴隷から解放された事――王から身体を求められた事――
しかし、1つ解せない事がある。
(……昨日、殿下は、俺の事が好きだとおっしゃった)
果たしてそれは真実なのだろうか? と。
「ん……」
「!」
びくりと身体が震える。嗚呼、暖かいのは抱きしめられているからか。
柔らかいベッドではまだ寝慣れず、随分と早い時間に目を覚ましてしまっていた。
……でも、それはもう、別に良いじゃないか。
「……殿下、」
ちゅ、とその肌に、小さく唇を落としてみた。勿論、痕が付かないように気をつけて。
――柔らかい、な。
何だか笑えてきたのは、これが夢であると信じたいからだ。
「殿下……これは、夢ではないのでしょうか……?」
俺のような奴隷を、貴方は街で見かけたというだけで、拾ってくださった。
奴隷の日々はとても辛く、いつ死のうかと考える日々でした……。
でも、貴方を初めてお見掛けした日から俺は貴方の為に生きようと誓った。
あの時は、もう一度会えるだけでよかった……。
「だから――」
「――ふむ。それは、期待以上の事をしてしまったようだな」
「ッ!?」
そっと腕を回し返そうとすると、その温もりはいきなり動いた。
え――と声を出す間もなく、並んで寝ていた体勢から、押し倒されるような状況に変えられる。
「私だって、気まぐれでお前を選んだわけじゃない。お前が良いと思ったからだ」
「え……?」
「しかし、な」
長い茶の髪が裸体に流れる様は美しい。
昨日は緊張して、それどころではなかったから……今堪能する事にする。
一筋走った、金も綺麗だ。
「お前はこれ程の幸せを望んではいなかったのか。これを夢だと思う程に」
「へ……あ、まぁ」
それは間違ってはいない。
「だったら幸せついでに、もう1つ2つ受け取ってもらおうか。お前は幸せかもしれないが、私はそれ以上を望んでいるのでな」
「それ以上、って……」
「結婚してくれ、レイシ」
「……ッ!」
身体が歓喜に震えた。
何故だろう……何故殿下は、そんな事を言うのだろう。
裸の肌が触れ合って、そこから熱が広がった。
「で、でも……」
「私は多分、お前が私を知るより先に、お前を知っていた。初めて市場で見た時、驚いたよ。世界にはこんなに美しい人が居るのかと」
殿下の方が余程美しい、と言いたい。
「それに、昨日分かった。確かにお前は私の運命の人なのだと」
「……殿下、」
「お前もそう思うなら、私のことを『レオン』と呼んでほしい」
殿下、は名前じゃない。だから名前を。
――彼の微笑みに勝てる人が、この世のどこに居るだろうか。
運命の女神はきっと、彼を幸運まで運んでくれる事だろう。
ならば俺の選択も、全ては運命として。
「……はい、レオン」
両手を伸ばして首を抱き寄せ、そっと唇を重ねた。
10-9/19
(それにしても、こんな朝早く……)
(ん? 今は朝ではないぞ。夕方だ)
(……え、)
(私が寝ているお前に色々悪戯をしたのだが……気付かなかったようだな)
最後の最後に詰め込み。