(ミナキとマツバ)



久々に訪ねたエンジュは、道端を暖色の枯れ葉が埋めていて、すっかり秋の終わりを感じさせた。夜風が冷たいが、黙々と歩いているせいか、あまり気にならない。スイクンを最後に見てから、結構な日数が経っているため、次の行き先の予想が困難になってしまった今、頼れるものはこの街に保管された資料、特殊な力をもつ友人だけだ。焦りからか、自然と足が早まる。
目的地である友人宅にはすぐたどり着いた。しかし、夜にもかかわらず明かりが点いていない。呼び鈴を鳴らしても、誰かいる気配はない。火曜の夜はめったに留守にすることはないと知っていたから来たというのに、どうしたものか。途方に暮れて家の前に座り込んだ。腰を落ち着けたところで、今更ながら、寒さを感じた。極力縮こまって、ため息をついた。その瞬間、ひんやりとした空気に首筋を撫でられて、体が跳ねた。

「……え、ミナキくん?」

聞き慣れた声に顔を上げると、目の前でゴースが楽しげに笑っていた。戻っておいで、と命令され、素直に彼の後ろに帰っていく。ゴースのガスが触れた箇所には、今だに冷たさが残っていた。マツバはゴースをボールに仕舞い、私の前まで歩いて、しゃがみ込む。目線は水平になった。

「こんなところで何してるの?」
「何って、君を待ってたんだよ!寒いから早く入れてくれないか」
「ごめん、ヒビキくんに呼ばれてて。連絡くれればもっと早く帰って来たのに、どれくらい待ってた?」
「十分ぐらいかな」
「え?……あ、そう…」

もっと長い時間待ってたのかと思った、と言わんばかりの反応に少し納得がいかない。寒い思いをしたのには変わりない。咄嗟に、中入ろうかと立ち上がろうとした彼の手首を掴んで、冷えた自分の頬に当てさせた。彼が驚いて体を強張らせるのがわかった。

「どうだ、冷たいだろ!」
「……あ、ああ、うん、ほんとに、だいぶ冷えてるね」

最初は動揺した様子だったが、段々と落ち着いて、私の頬を手の平で包んだ。彼の体温はそんなに高くないが、今は夜風に晒された私の肌の方が冷えているので、とても温かく思えた。しばらくそのまま二人固まっていたが、マツバが口を開いた。

「ねえ、ミナキくんがここに来た理由はなんとなくわかるけどさ、」
「……さすがだな」
「だって、そんな理由なんて一つしかないしね」

どうせまたスイクン探しに息詰まったんでしょ、と笑う。図星を突かれ、苦笑いで頷くと、彼は「もちろん協力はするけどさ、」と言ったっきり、黙ってしまった。俯いた彼の名前を呼ぶ。すると今度は顔を勢いよく上げた。危うくぶつかりそうになる。

「明日にしない?今日はさ、僕んちに泊まっていきなよ。ミナキくんだってたまにはゆっくり休んだ方がいい。……それに、久しぶりに会ったんだから、いろいろ話したいし」

普段は昼夜問わず、文献を漁り終えたらいてもたってもいられなくなってすぐ出かけてしまうのだが、マツバはいつも何も言わなかった。引き留められたのは初めてで、少し嬉しい。断る理由もないし、その気も起きない。お言葉に甘えさせてもらうよ、と承諾すると、彼は不安げだった顔を綻ばせた。

「夕飯まだでしょ。鍋でもしない?寒くなってきたし」
「いいな、鍋なんて久しく食べてない」
「じゃ、このまま買い物行こう」

彼はすっと立ち上がった。頬に触れていた彼の手が離れていく。寂しさを感じながら、背を向けた彼を早足で追った。





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