それはそれは寒い夜でした。あの日は事故があり、その処理に追われて遅くまで残業をしていました。更に挑戦者が強者揃いで、休む間もなく朝から晩まで働きっぱなしだったのです。正直、身体的にも精神的にも、とても疲れていました。そのせいか、些細なことでクダリと言い合いになったのです。いつもなら気にもならないクダリの態度が、その時のわたくしを苛立たせました。みっともなく声を荒げて、ここぞとばかりに普段の生活態度についても文句を言いました。そんなわたくしにクダリも苛立ったようで、お互い掴みかかりこそしなかったものの、家の中は殺伐とした空気になりました。クダリは一向に頭の冷えないわたくしに我慢出来なくなったのでしょう、一度脱いだコートを掴んで家を飛び出して行きました。玄関が大きな音を立てた後で、静まり返った部屋が、その時のわたくしにはとても心地よかった。わたくしとクダリは、生まれたときからずっと一緒でした。一人というものがこんなにも気楽であることを初めて知ったのです。わたくしはクダリを追うことなんて全く頭にありませんでした。わたくしが追いかけずとも、どうせそのうち帰って来るのです。その時はただ、存分に一人の時間を満喫したかったのです。眠りに就いて、翌日の朝、クダリは帰って来ていませんでした。しかし、こんなにも静かな朝があるなんて知らなかったわたくしは心配に思うどころかほっとしました。運のいいことに、その日は休みでした。つい二人分作りそうになった朝食を一人で取って、コーヒーを飲んだり、新聞を読んだりして過ごしました。とても静かで、のんびりとした一時でした。その時のわたくしは幸せでした。一段落ついたところで、部屋の掃除を始めました。クダリは片付けが苦手で、幼い頃からわたくしがほとんど彼の分までやっていました。案の定、部屋を散らかしていたのは大半が彼の私物やゴミでした。綺麗になった部屋はまるで自分一人の部屋のようでした。そこでまたのんびりと過ごしました。その日も、クダリは帰ってきませんでした。彼はその日出勤で、翌日休みだったので、おそらく夜中に帰るか、もしくは翌日には帰って来るだろうと心配はあまりしていませんでした。一人の時間が無くなることを少し惜しく思いました。





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