(コーン×ポッド)
※デント×コーン描写あり



あれはひどく乾いた夜だった。そう、ものすごく乾燥していたのだ。咽の渇きのせいで夜中に目が醒めた。仕方なく、部屋を出て台所に立った。水を飲んだら、後は部屋に戻り、また眠りに就くだけ。それだけのはずだったのに、おれは弟の部屋の扉から僅かに漏れる明かりに気付いてしまった。デントの部屋だった。起きているのか、と近付いたら、中から一瞬声が聞こえた。それは詰まりに詰まった息を吐き出すような、とても苦しげな声だった。おれは当たり前のように、何かあったのかと不安になり、慌てて扉に手を掛けた。と、同時に、布が擦れる音と共に聞こえた声がおれを止めた。

「あ、デン、ト、あ、あっ…」

もしかしたらおれはその時、え、と呟いたかもしれない。生まれた時からずっと一緒だったのだ、少し高いが、聞き間違うはずはない。コーンの声だった。残念ながら、中で二人が何をしているのか、察することが出来ないほど、おれは子供ではなかった。しかし、絶対に信じたくなかったし、認めたくもなかった。おれは愚かにも、もしかしたら違うのではないかと淡い期待を抱いた。おれは事実をしるために、震える手で扉を僅かに開いた。そして、後悔した。薄明かりの部屋の奥、ベッドの上で、ゆらゆら揺れる二本の脚と、腕が回されている背中が見えた。デントに組み敷かれているコーンが、先程聞いたような声を控えめに上げていた。おれはショックで混乱していた。どうしよう、いっそ見なかったことにして、と思った、まさにそのタイミングで、コーンと目が合った。

「…あ、ああッ!」

その瞬間、コーンが一際高い声をあげたので、おれの方がびくっと震えてしまった。心臓がばくばくと音を立てる。やがて、一度は目を閉じたコーンが、何度も息をしながらゆっくりと瞼を上げた。そして、動くことが出来ないおれを見て、いやらしく笑ったのだ。おれは急に怖くなって、その場から逃げ出した。足音とか、呼吸とか、気にしている余裕はなかった。
あんな二人なんて、知らなければよかった、どうして、なんであんなこと、おれは、なんでおれは知らなかった、知らされなかった、なんで知ってしまったんだろう、おれはどうしたら、おれは、おれは、おれは!全身被った布団の中、考えれば考えるだけ頭の中がぐちゃぐちゃになって、その夜、おれは眠ることが出来なかった。



翌朝、どんな顔をして二人に会えばいいのかわからず、俯いて居間に入ったら、おはよう、とまずデントに挨拶をされた。普段と全く変わらなかったが、もしかしたらいつもあんなことをしていたのではないか、と思ってしまって、おれはぎこちなく返事をした。

「なんか疲れた顔してるけど、寝不足?」

突然違う方から投げかけられた指摘にぎくりとした。本を片手にソファーに座っていたコーンが、おれを見ていた。昨日のコーンの姿が浮かんできて、咄嗟に目を逸らす。

「べ、別に」
「…顔赤いけど、熱でもあるんじゃない?とりあえず座れば?」
「い、いや、平気平気!熱なんてねーって!」

顔が赤いと言われて慌てたおれは、喋りながらなぜか言われるままコーンの反対のソファーに腰掛けてしまった。素直に熱があると言えばよかった、とか、なんでここ座ってんだ、とか、明らかに取り乱し過ぎている自分に泣きたくなった。幸いコーンは既に興味を無くしたようで、それならいいんだけど、と言いながら目線を本に移した。そこへ、先程から何やらうろうろしていたデントがやって来て、

「ちょっと買い物行ってくるけど、何か欲しいものある?」

尋ねた。コーンが顔を上げずに「ミックスオレ」と呟く。ポッドは、と聞かれたので、おれも、と答えた。じゃあ、とデントが部屋を出ていったところで、コーンと二人になってしまったことに気付いた。コーンは無言で活字を追っている。いつもならおれが喋るのだが、今日に限って何も浮かばなかった。沈黙が息苦しい。ぱら、と三回ほど、ページをめくる音が部屋に響いた頃だった。

「そういえば、どうだった?」

突然、コーンが口を開いた。おれが質問の意味を理解出来ないでいたら、視線を落としたままのコーンが続けた。

「昨日の夜。見てたでしょう。目が合ったもんね。…ねえ、どうだった?驚いた?僕らのこと軽蔑した?それとも―……興奮した?」

閉じられる本。コーンの瞳がおれを捕らえた。緊張のあまり、身動きが取れない。

「……っ、そ、その…」
「まあいいや、感想は。そんなことより、」

本を置いたコーンが机を跨ぐ。おれの耳の横に手をついて、顔をぐっと近付けられた。二人目の体重を受けたソファーが音を立てるのがやけに大きく聞こえた。

「僕は君にあんな所を見られた訳だ。不公平だと思わない?…何が言いたいのかわかる?」

息もかかりそうなギリギリの距離で、コーンは微笑んだ。あの夜に見た顔と同じそれに、おれは指の先まで凍り付いた。

「次は、君の番だと思いませんか。ねえ、ポッド」

男にしては細い指が、おれの首のタイを解く。怖くて仕方ないのに、おれはぴくりとも動けなかった。



221005
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