(ヒビマツ)



こどもというものは、無邪気で、好奇心の塊で、純粋で、未熟で、素直で、笑顔や泣き顔で大人を翻弄する、そういう生き物だ。こどもが大人になる瞬間というのは、それらが欠けてしまった時だと、俺は定義する。よって、俺はまだこどもなのだ。
俺は立派な好奇心を持ち合わせているし、それに素直に従って行動する。未熟という点は認めたくはないものの、特に身体的なところでは大人に敵うわけもないから、やはり認めざるをえない。だから俺は、無邪気な笑顔で彼に純粋さを示すことにした。これもこどもの特権だろう。





「でも、矛盾してるよね」

冷たい床に黄金色を散らした彼が宙に呟く。その彼の両手を軽く踏んづけているバクフーンが、きょとんとして俺を見る。そのままでな相棒、笑いかけると、背の炎が勢いを増した。彼の服に潜らせたままの手が、作業を再開する。彼の肌は鳥肌を立たせていたが、いかにも呆れてますと言うような表情で、口元には薄っぺらい笑みさえ浮かべていた。

「子供はこんなことしないよ」

終いには、自分が大人であることを棚に上げ俺を諭す。平然を保っているつもりなのだろうか。声音に焦りが滲み出ているというのに。

「やだなあ、マツバさん」

腹に跨がっていた体を大きく前に倒し、顔を覗き込む。彼は逃げるように僅かに首を反らせたが、視線は決して俺から外さなかった。せめてもの反抗、なのだろうか。面白い。

「俺はただあなたのいろんな顔が見たいだけなんですよ、これが好奇心以外の何だって言うんです」

せっかく笑いかけたのに、彼はどうしてか、ひどく悲しそうな顔をした。俺にはどうして彼が傷付いたのかよくわからないが、初めて見た彼のその表情は、とても美しかった。



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