(ヒョウタ×ゲン)



人は欲深く、嫉妬深い生き物である。自分が何者かもわからず、各地を転々としているうちに行き倒れていた自分を拾い、住まいと食事を無償で提供してくれた親子は、そんな迷信とは無縁であると、ゲンは強く感じていた。親子は、ゲンが本当の家族であるかのように温かく接し、また、ゲンがそれに甘えることを望んだ。だから、親子の父であるトウガンを、本当の父親のように思っていたし、子であるヒョウタを、本当の弟として可愛がった。
しかしヒョウタは、ゲンが家に来たばかりの頃、突然現れた部外者を快く思っていなかった。母親を早くに亡くし、父親だけが唯一の家族であったヒョウタにとって、父親の関心が自分以外に向けられることは苦痛だったのだ。

「僕から父さんをとらないでよ!」

ゲンさんのばか!と握った小さな拳が足を叩く。そんなヒョウタを見る度に、ゲンは心が痛んだ。しかし、同時に愛おしく思った。人間の持つ醜い部分だと思っていたものは、ヒョウタのこどもらしい素直さを通すとそれと認識することが出来なかった。やはり、ゲンからしたら、この親子は欲望や嫉妬とは無縁だった。



人は欲深く、嫉妬深い生き物である。自分を拾った親子とは無縁だと思っていた言葉を頭の中で反復する。どうやら私の思い違いだったようだ、ゲンは思うが、ぎらぎらとした、欲望と嫉妬を含んだ瞳を嫌悪することは出来なかった。なんて人間らしい、生き生きとした目だろう。素直に感心し、そして羨ましく、愛しかった。

「ゲンさん、あなたを父さんには渡さない」

いつか似たような言葉を聞いた気がするなぁ、と思った。今、ヒョウタは青年となり、ゲンの体をしっかりとした力で押さえつけているのだが、ゲンの脳裏では確かに、幼いヒョウタがずっと泣き続けていた。



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