(アカギ×デンジ)
※アカギとデンジの過去捏造



デンジは幼い頃から機械いじりが好きだった。そのきっかけとなったのが、同じナギサに住んでいた、少しばかり年上の少年だった。少年は、いつも一人だった。デンジは決して自分から進んで話しかけにいくようなタイプではなかったが、両親の興味はデンジに注がれていなかったため、同じ境遇であった少年が気になったのだ。少年はまだ十代前半だというのに、大人びた、そしてどこか冷めていて、まだ倍以上はあるだろうこれからの人生を悲観していた。しかし、デンジは他の子のように少年を不気味だとも、可哀相だとも思わなかった。必要以上のことを話さない少年の隣が心地良く、いつもついて回るうち、少年もデンジを拒絶しなくなった。少年は、機械を扱う技術に長けており、趣味でもあった。デンジが横で自分の作業を見ていることを咎めもせず、目の前の機械に集中していた。デンジは少年に放っておかれることはどうでもよかった。ただ、目の前でただのパーツに過ぎなかった金属や配線が、まるで魔法のように完成していく様から目が離せなかった。そして、機械を触っている時の少年の生き生きとした表情にも、気付いていた。ある日、少年の見よう見真似で、簡単な送電装置を作った。デンジはまだ七歳だった。完成したそれを、テストもせず、少年のところへ持って行った。しかし、少年がいくらスイッチを入れても、装置は動かなかった。デンジは悔しさに泣きそうになった。少年は、それまでで一番優しい声で笑った。

「初めてでここまで出来たら上出来だ。お前は才能があるよ」

その時頭に触れた温かさを、デンジは忘れたことはない。それから少年は、自分の持つ知識や技術を全てデンジに与えた。そして、デンジが十歳になり、赤毛の同い年の少年に出会った頃、デンジの師はナギサから姿を消した。



見たことのない男がジムに尋ねてきたのは、ジムを閉めようと外に出た、すっかり辺りは闇に包まれた頃だった。

「シンオウ最強の、ナギサジムジムリーダーデンジ、か…」

デンジの姿を認め呟かれた言葉は、まるで独り言のようだった。扉に施錠しようとしていたデンジは、訝しげな視線を男に向けた。

「…あの、挑戦者?だったら、今日はもう閉めようと思ってたんですけど…」

どう見ても年上であることは確かなので、デンジは下手に出て、男の様子を伺った。男は控えめに笑い、デンジに向かって歩を進めた。

「俺がわからないか?まあ仕方ないな、あれから十年以上経ってるんだ。それにしても、この街の設備はお前がやったのか?やはり、俺が見込んだことはある」
「……アカ…ギ…?」

男の話を聞いているうち、デンジの頭の中で、幼い頃に見上げていた少年の顔がぼんやりと思い出された。男はデンジの問いに、久しぶりだな、と返すことで肯定した。デンジは、思いがけない再開に喜びを隠しきれず、男に駆け寄った。

「…ほ、本当にアカギなんだよな?なあ、オレ、あんたがいなくなってからここまで出来るようになるまで大変だったんだぞ!今までどこで何してたんだよ…!」

男はデンジに対し、随分口が回るようになったな、という印象を受けた。男の記憶では、デンジは無口な子供だった。その分、人一倍熱い内面を持っていたが。

「それを話しに来たんだ。俺がこれからやろうとしていることを、最初にお前に話しておこうと思ってな」

貼り付けた笑顔の仮面は、長年会っていなかったデンジに見破られることはなかった。

「ちょっと待っててくれ、鍵閉めてくる」

まるで警戒せずに、くるりと背を向けたデンジを、男はもう少しで笑い飛ばすところだった。まだまだ子供だ、自分は完全に信用されている。男はそれまでとは違う種類の、冷めた笑みを浮かべて、鍵に向かうデンジの背後に立った。そして、デンジが振り向くと同時に、その体を扉に叩きつけ、白い首を掴んだ。

「…っ、…ッ!?」
「愚かだ、あまりにも愚か過ぎる。君は私があの頃と同じだと思っていたのか」

手に力を込めると、驚きに見開かれていたデンジの目がきつく閉じられた。指先が男の手を掻く。男は抵抗をものともせず、言葉を続けた。

「君は今、怯えている。怖いと思っているだろう。私が。死が!それを君が今認識しているのはなぜだと思う?」

尋ねながらも、力は緩まない。男は始めから、デンジからの答えを求める気はないのだ。変わらず酸欠にもがくデンジの耳元に顔を寄せ、男は一言、「心だ」と告げ、再びデンジの顔を正面から見据えた。

「心が存在するから、人は悲しみ、恐怖する。私は君にこれから私がしようとしていることを教えに来たと言ったな?教えてやろう。私は人から心を消す!伝説の力を借り、私は新たな世界を作るのだ!」

男が高らかに笑う。デンジは薄れる意識の中で、嘘だ、と繰り返す。デンジの目の前には、男は過去に自分の師であった事実だけが横たわっていた。

「信じられないといった顔をしているな。そうだろう、君はあの頃の私を知る唯一の人間なんだ。だから、私は君の元へ来たのだ。私がこれから作り出す、誰も心を持たない世界、怒りも悲しみも喜びも全て存在しない世界。実現した時、君は最後まで残しておいてやろう。その素晴らしい世界の、君は唯一の目撃者となるのだ。これがどれだけ光栄なことか、君には理解出来るか?その理想の世界から一人外れた君は、その後どうなると思う?崩壊するのだ!私の手によって!ああ、今からその姿を想像すると期待と歓喜に体が震える。わかるか?君は私にとって、それだけの人間だということだよ、―デンジ」

穏やかな声で独自の論を締めた男の手が緩み、デンジは咳込みながら、その場に崩れ落ちた。男は黙って、肩で息をしている様子を見下ろしている。

「っ、なん…で、アカギ…」

乱れた呼吸の間から、デンジが問う。それは幼かった頃の彼を男に連想させた。少年は随分と大きくなったが、男にはまだ小さい子供の姿として映っていた。しかし、男にはもう、その頭を撫でてやる気はない。男はデンジに背を向けて、静かに告げた。

「次に会う時は君を壊す時。さよならだ」



それ以降、謎の組織、ギンガ団の噂がシンオウ中を駆け巡り、各地で彼らの姿が目撃されるようになったが、ナギサには全く彼らは現れなかった。その理由は、たった一人、ナギサシティジムリーダーのみが知っているのだが、誰にも語られることはない。



220306
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