03.



数日後、落ち込んでいるのは明らかなのに、彼はやけにさっぱりとした態度で、僕の前に現れた。ただ痛々しかった。僕は全て知っていたからだ。

「私は、スイクンに選ばれなかったよ」
「でも私は満足だぜ。最後に間近で美しい姿を見られたから」
「ヒビキくんにも、大事にするように念を押してきた」
「さあ、これからどうするかな」

普段より口数が多い彼からは、確かに悲しみを感じた。でも彼はそれを微塵も表に出さず、笑っている。悔しかった。僕はこの後、彼がどうするのかを知っている。僕の眼が映すのは、正しい、確実にやってくる未来である。今ここで何をしようが変えることは出来ないのだ。それが悔しい。しかし、変えられないとわかっていながらも、何もせずにはいられなかった。所詮は気休め。僕の自己満足。それでも、あまりに彼は痛々しすぎたのだ。僕は彼の頭を抱えるように抱いた。腕の中で、彼は僕の名前をいぶかしげに呼んだ。僕は必死に言葉を探した。おつかれさま、僕ら頑張ったよね、長かったね。

「……おわった、ね」

実際出てきたのは、消極的な言葉だった。そう、二人とも終わったのだ。改めて自覚し、僕は不覚にも目尻が熱くなった。
しかし彼は笑ったようだった。穏やかな声が「そうだな、」と耳を擽った。彼が無理矢理笑うのが、僕には辛かった。彼はこれから、ひとり泣くというのに。



220306

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