(オデン)



オレの不用意な発言は一瞬で和やかだった空気を変えた。先程まで談笑していたはずなのに、二人とも沈黙した。オレの足に当たったビールの空き缶が、カランとやたらでかい音を鳴らした。

「…好き、…って、」
「違う、今のは、間違えた」
「お前が?オレを?マジで言ってんの?」
「だから違うんだって、なんでもない」
「…」

多少、ではあるが、アルコールが入って、相変わらずのくだらない話をして、ちょっと気分がよくなって、やっぱりオレこいつが好きだなぁ、と思ってたら、ぽろっと口にしてしまった。なあオーバ、好きだ、なんて、それまでと変わらないテンションで。忙しく喋っていたオーバが急に黙って、そこでオレは初めて自分の失言に気付いて、酔いも一気に醒めた。不自然にならないように首を捻り、持っていた缶を内心真っ青で見つめていたら、オーバに問い詰められた。オレの答えから再び訪れた沈黙。隣を盗み見る、一瞬絡んだ視線は慌てたように反らされた。ショックを受けて、平静を装いながらも必死に言葉を探した。
違うんだ、オレはずっと隠し通すつもりだった、オレはただおまえといられればそれでいいんだ、気持ち悪いと言わないでくれ、オレはただおまえが。浮かんでくるのは言えない本音ばかりだ。

「…あのさ、オレは」

戸惑いがちにオーバが口を開いた。怖い、聞き慣れた声がオレを拒絶する言葉を紡ぐのが。

「普通に…いや別にお前が普通じゃないってことじゃないけど、まあ…女の子が好きなわけ…」

嫌だ、やめてくれ、オレは別に答えを求めてるわけじゃないんだ、聞きたくない。耳を塞ぎたくなる、でもオレは握った缶から手を離せなかった。なんだかんだ、オーバが何を思ったのか知りたいのだ。オーバはそこで黙った。目が泳いでいる。どんな拒絶がぶつけられるのだろう、心臓がばくばくと鳴って仕方なかった。オーバは指に力を込めたのか、缶を鳴らし、中身を一気に飲み干した。空の缶が勢いよく下ろされ、乾いた音を響かせた。

「だけど!!オレ、お前だったら別にいいかも、なんて、思うんだよな!!」

そのままの勢いで叫んだオーバの顔は、頭と同じく真っ赤だった。先程まで反らされていた目はまっすぐオレを見ている。オーバの言葉の意味を理解したオレは、自分の体温が急上昇していくのを感じた。オレの涙腺がもう少し緩かったら、今頃ぼろぼろ泣いてるところだが、残念ながら涙は全く出る気配はない。実際、心境としてはそれくらいの喜ばしいことだった。結局、今のオレの心境を表す表情がわからず、注がれている真剣な眼差しに耐え切れなくなって、オレが先に視線を外した。

「…声がでかいんだよ、ばーか」

散々考えて、出てきたのがこれだ。素直じゃねーなぁ、お前って手先以外は不器用だよなぁ、とからかう声が聞こえたので、立てていた膝を伸ばして、胡座をかいたオーバの足を軽く蹴った。オレの攻撃に、オーバが顔をくしゃりと崩して楽しそうに笑った。つられて少し笑いながらビールを喉に流した時、自分の手が触れた頬がやけに熱かった。



220306
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