(ハヤマツ)



「僕、チョコ嫌いなんだよね」

マツバは膨れた紙袋を持って現れたばかりか、眉を下げて困ったなぁと苦笑いして冒頭の一言を告げ、おれの気分を一瞬にしてどん底に落とした。しかも、いる?と袋を差し出してくる始末だ。普段のおれなら、それはみんなお前への好意なんだぞ!と説教でもするところだが、おれの気分はとにかく今どん底に落ちたところなので、面倒でそんな気にはならなかった。

「いらねぇよ」

怒っているように聞こえたのだろう、おれの返事にマツバは少し動揺したようだ。別に怒ってはいないが、誤解されたとして、訂正する気も必要もない。じゃあおれはこれで、と差し出された手に背を向けようとした時、待って、と引き止められた。渋々振り返る。

「じゃあ一個だけでいいからさ」
袋の中を漁っていたマツバの手から、比較的シンプルな包装のものを強引に押し付けられた。一瞬むっとしたものの、今更怒る元気もない。

「いらないって言ってるだろ」
「だって嫌いなんだもん、処理よろしくね」
「お前…最低な男だな…」
「うるさいよ」

それからマツバは、じゃあね、と用が済んだとばかりに早々に立ち去ってしまい、渡されたチョコは仕方なく持ち帰ることにした。



机の上に二つ並んだチョコの箱を見て、ため息をつく。一つはマツバに処理してくれと貰ったものだ。もう一つは、おれがマツバに渡す予定だったものだが、マツバがチョコ嫌いと知ってしまった今では、これは何の意味もないただの菓子だ。勇気を振り絞って買ったおれがばかみたいだ。大体、マツバの好みを把握出来ていなかった自分が情けない。思えば、いつもおればかり話して、マツバは全然話をしなかった。ただ穏やかに笑っておれの話を聞いてるだけだ。マツバはおれといて楽しいのか?マツバはおれのこと、どう思ってるんだろう。マツバは、おれのこと、ちゃんと好きなのか?
ふと、歪んだ視界にチョコの箱が映って、どうしようもなく悔しくなって包装を破いた。ああ、こっちはマツバに渡された方か、と頭の隅でぼんやり思う。びり、と紙が大きく剥がれ、中身が現れた。気が付いたら、おれはそれを見つめたまま涙を流していた。

 " すきだよ。"

ほとんど走り書きだ。箱に直接黒いマジックで書かれた一言。おれにはそれで十分だった。おれはマツバを好きでいていいんだ、と思った時、もう一つの綺麗に包まれたチョコの箱が目に入った。おれは涙を拭って、箱を掴んで飛び出した。チョコが嫌いだろうがなんだろうが、おれだって渡したいんだ。



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