(ミナマツ)



新年は一人で迎えた。ひどく寒い夜だった。錫の塔の傍、遠い鐘の音を聞いて、年越しを知った。ポケギアは日付が変わっても鳴らなかった。電話くらいくれたっていいだろうと、伝説のポケモンを追って、数日前カントーに行ってしまったミナキくんの後ろ姿をつい思い出して、期待している自分が嫌になる。しかし、彼は今頃はどこにいるのだろう、僕と同じように穏やかな年越しを過ごしているのか、それとも誰かと。結局、気付いたら僕は彼のことばかり考えていた。白いため息が暗闇に溶けた。どうやら今夜の僕は弱いようだ。早々に帰って寝てしまおう、と決意して、その場を後にした。




「マツバ!!」

玄関先で、僕は自分の名を呼ぶ叫び声を聞いた。まさか、と声のした方に顔を向けた。その瞬間、全身に衝撃が走る。紫色が視界いっぱいに広がったと思ったら、僕の体は勢いよく後ろに倒れていた。地面にぶつけた背中が痛んだ。目を開くと、肩で息をするミナキくんがいた。僕の顔の横に両手をついて、必死に酸素を取り込んで、そのまま動かない。僕はといえば、混乱した頭の整理に追われていた。

「……っ、遅く、なって……本っ当に、すまなかった!!」

僕は彼と年越しの約束などしていない。なのに、彼は急いでここに来た。スイクンを追うのを中断してまで。それは、新年を僕と一緒に迎えるために、と考えていいのだろうか。一体どのくらい走って来たのか、ようやく出た彼の声は掠れていて苦しげだった。嬉しさに涙が込み上げる。が、確かに嬉しいけれど、一応ここはまだ外だ。誰かに見られるかもわからない。ここでいつまでも彼の下敷きになっているのは御免だった。少し可哀相だけれども、彼の肩を下から軽く押した。

「ねえ、とりあえずどいてくれないかな」

僕が怒っていると思ったのか、ミナキくんは慌てた様子で謝罪を述べて、僕の上から飛びのいた。立ち上がって服に付いた汚れを払い、改めて彼を正面から見ると、ぴんと姿勢を正し、唇を引き結んで僕の言葉を待っていた。その様子が面白くて、なんとなく、少しからかってやろうかな、と思い、冷たい風を装った。

「なんで謝るの。僕、別にミナキくんのこと待ってるなんて一言も言ってないよ」
「え……いや、まあ、それは」
「それに、さすがだよね。まさか新年早々押し倒されるとは思わなかったよ」
「……申し訳なかった」

しょんぼりと頭を下げたミナキくんが可笑しくて、僕はこれまで保っていた真顔を思わず綻ばせてしまった。一度破綻してしまったものはもうどうしようもなく、僕は声をあげて笑う。

「マ、マツバ……?」
「冗談だよ、ごめんね」
「……やめてくれよ、嫌われたかと思ったぜ」

緊張が解けたらしく、ミナキくんは深いため息をついてから困ったように笑った。それからその場にずるずるとしゃがみ込んで、疲れた、と呟く。立っているのが辛いようだ。どうすれば彼が元気になるだろう、と考えて、彼の前に膝をついて、うなだれた肩を叩いた。

「ねえねえミナキくん」
「なんだ……?」
「頑張って走ってきてくれたから、もう一回くらい押し倒されてもいいよ」

ただし布団の上でね、と言う前に、とても疲れている人間のものとは思えないスピードで襲いかかってきた彼の手によって、僕の背中は再び地面にぶつかった。



220107


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