(グリーンとマツバ)
※レッド←グリーン前提



「あんた、千里眼が使えるんだって?」
端の方でゴースと戯れていた男は、一切の動揺すら見せずに、おれの声にゆっくりと顔を上げた。無表情。しかし威圧感は感じさせない。このまま消えてしまいそうだ、そんな感想を持った。
「君は」
「グリーン。トキワのジムリーダーだ。なあ、あんたは人に見えないものが見えるんだろ?」
ゴースがおれを見て鳴いた。おれの心中を知って嘲笑うかのようだった。男は横目でそいつを見やる。主人に咎められたゴースは静かに姿を消した。深いため息をついて、男はおれを正面から見据えた。
「……見えたとして?」
男の印象は、人から聞いたものとは随分掛け離れていた。穏やかでどこか抜けている、と。ジョウト特有の訛りが激しい女が言っていた。しかし、男がおれを見る目はひたすらに冷たい。緊張で足がすくみそうになるが、おれは覚悟を持って男と対峙しているのだ。この男の眼が、おれの最後の希望だった。
「探してほしい奴がいる。今どこにいるのか。いつ、いや、そいつは帰ってくるのか」
はやる気持ちを抑えきれず、目的を一息に告げたおれに対し、男はまるで珍しいものでも見たかのように目を丸くした。
「君は……信じる方の人間か」
「え?」
それから自分に言い聞かせるくらいの静かな声量で呟いて、僅かに口元を綻ばせた。既に、先程まで纏っていた重い雰囲気はない。
「いや、なんでもない。いいよ。やってみる」
おれは探してほしい人がいる、と言っただけで、それが誰だとか、どんな奴だとか、何も話していない。にもかかわらず、男は床に腰を下ろし、目を閉じた。仕方なく、おれも正面に胡座をかく。ゴースが彼の後ろに現れて、おれの方へ漂ってきた。視線が合った瞬間、口を大きく左右へ広げ、球体の体を揺らして無言で笑った。見てろ、と言われているような気がした。言われなくても、男を疑ってなどいない。おれは黙って男が瞼を開く瞬間を待った。

時間にして十分くらいだろうか、男の睫毛が揺れ、瞳がおれを捉えた。おれは思わず身を乗り出した。
「何かわかったか!?」
男は少し悩むそぶりを見せ、遠慮がちに口を開いた。
「……君は、彼の居場所がわかったとして、どうするつもり?」
「行く」
即答する。男は俯いて小さく首を振った。
「なら、教えることは出来ない」
「なんでだよ!」
おれは衝動に任せて、男の肩を掴んだ。あいつの居場所はわかったのだ。それなのに、会いに行くことは許されないなんて!あらゆる可能性が頭の中を駆け巡った。ものすごく遠い場所なのか、危険な場所なのか、それとも。最悪のケースを想像して、血の気が引いた。そんなおれに気付いたのか、大丈夫、と男が言った。
「彼は今、誰も気付かないような場所で、何かを待ってる」
結果、おれの考えた最悪のケースではなかったようだ。ほっとして、掴んだ男の肩を離した。男は少し間を置いてから続けた。
「でも、それは君じゃない」
単調に告げられた事実は、おれにとってショックだった。なんとなくわかってはいたが、認めたくなかったのだ。でもおれは、あいつに会いたい。会って、いろいろな話をしたいし、聞きたいし、バトルだってしたい。だから男を頼った。
「……そんなの、関係ねー。おれはあいつを迎えに行く」
「君は行っちゃだめだよ。彼のためにも。……それにね、」
おれはその時、男の笑顔を初めて見た。邪気のない、きれいな笑みだった。
「君が今ここにいるってことは、そう遠くないと思うよ」
男の言葉は曖昧で、よくわからなかった。納得のいく答えではない。でもおれには男を信じることしか出来なかった。いつの間にか男の側に寄っていたゴースが笑った。男はそいつに微笑みかけ、また何かあったら声をかけて、と話を終わらせた。おれは結局、あいつに辿り着けずに終わった。それでもとりあえず、おれはもう少しだけあいつを待つことが出来そうだ。



211204

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