(ハヤマツ+ミカン)



たまたまヤマブキの格闘場で出会った、白いワンピースが似合う彼女から突然渡されたそれ。「この前シンオウに行って来たんです。これ、お土産です」と笑顔で差し出されてしまっては断れなかった。ちなみに、おれと彼女は特別親しいわけでもない。二人で会話を交わした回数だって片手で足りる。なのになぜ、わざわざおれに土産をくれたのか。考えられる可能性はひとつしかない。おれは彼女から貰ったタマゴをしっかりと抱え、きっとこの中から生まれてくるのだろう、まだ見たことのない鳥ポケモンに思いを馳せた。





「で、生まれたのがこの子?」
おれの目の前で、ふわふわと浮かぶ風船の形をしたポケモンを、きらきらした目が追う。普段の生気の欠けた目が嘘のようだ。どうやら彼もこいつを見たことがないらしく、膨らんだり萎んだり回ったり、その一挙一動に興奮している。どうやらだいぶ気に入ったらしい。わかりやすい奴だなあ、とその様子を眺めていたら、マツバは突然おれと視線を合わせて、首を傾げた。
「でも、なんか君、ちょっと残念そうだよね。この子、ちゃんと飛ぶんでしょ?」
「まあ飛ぶけど。おれとしては完全に鳥ポケモンが生まれると思ってたからびっくりしたんだよ」
どうやら風船はマツバに懐いたようで、先程から少しはねた金色の髪をつついてみたり、周りをくるくるまわったりと楽しそうだ。
「だからさ、マツバ、おれの代わりにこいつ育てないか?」
「え…?僕?」
ぴたりと風船が動きを止めて、おれをじっと見た。何を考えているのかわからないが、怒ったり悲しんでいるわけではない、と思う。手を小さく振ってみたら、足?をゆらゆらと振ってくれた。かわいいとは思うけれど、バトルでこいつを繰り出す自分はやっぱり想像できない。
「おれはゴーストの育て方はよくわからないからさ」
「え、え、ほんとにいいの?」
ずいっと身を乗り出してくるマツバに、思わず身を引く。近い近い近い。ああ、と頷いた瞬間、彼のテンションが見るからに最高潮に達した。わああと風船を抱きしめて、にこにこと笑う。初めて父からポッポを譲り受けた時を思い出した。きっとおれもあんな感じだった。年は彼よりもだいぶ幼かったけれど。風船を解放した彼は、突然おれの両手を握りしめた。
「ありがとう!大事に育てるから!」
滅多に見ることのない、満面の笑みだった。思わず顔が火照る。しかし、テンションの高ぶったマツバはおれの変化に気付かなかったようでほっとした。




「お土産気に入って頂けました?」
後日、格闘場でミカンさんに話しかけられてぎくりとした。貰ったポケモンを人に譲るなんて失礼だったと後悔したのは、あの日ジムに戻ってからだった。なんて説明しようかと思考を巡らせていると、彼女は女神のように微笑んだ。

「彼と、もっと仲良くなれましたか?」

なんてことだ。始めっからおれは見透かされていたのだ。



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