「じゃあ行ってきまーす」
カゴに飛び乗ってきたケロちゃんが落ち着くのを待ってから、右足を踏み出す。

「暗くならないうちに帰りなさいよー」
後ろから聞こえる母の声には振り返らずに右手を振って応える。

ご存じだろうか。
田舎には神主さんがいない神社はたくさん存在する。いやむしろ居る方がレア、そんな感じである。
跡継ぎがいなかったり、経営が難しかったりしてどんどんいなくなっているのだ。
そんな我が家も神主の家系だったが、跡継ぎだった父は神社を継ぐ気もなく、私が生まれてすぐ亡くなった祖父も理解ある人だったので、廃業?みたいな感じになっている。
今は1年に一度、県でいくつもある神主不在の神社の管理をしている人が来てくれていろいろしているらしい。
がしかし、それでも元はお前ん家のもんだろ?みたいな地元の視線によって一応我が家が定期的に掃除をしている。
そして日々仕事をして家族を養う父、双子の子供の育児に手一杯の母、幼稚園に通っているとはいえやんちゃ盛りの双子の妹と弟、結構急な神社の石段がつらい祖母、そして手が掛からない可愛すぎる神童な私。…良い子のみんななら誰が負担すべきか一目で分かっちゃうよね☆

途中ですれ違うご近所さんに挨拶しつつ30分。自転車を漕いでると恋のヒメヒメぺったんこを歌わなくてはならない病にかかった私は7回も繰り返し歌ってしまった。もはや洗脳ソングである。合いの手をしてくれたケロちゃんももう手遅れすぎる。
神社のすぐ近くにある祖母の家に自転車を置いて、祖母に挨拶して昼ごはんを食べてくつろいでから神社の石段をのぼる。
だんだん大きくなる賑やかな声に少しほっとして顔が緩むのが自分でも分かる。
広い拝殿の扉をあけると、今日もたくさんの飲んだくれ。

「おお!胡桃よ!昨日は来なんだが、いかがした?」
「胡桃様〜!遠方の友より珍しいものを頂いたので一緒に食べましょう!」
「胡桃や、約束のくっきーは持って来たかい?」
「ああまじ胡桃たん良い匂いぃうへへへへ」
「ちょ、胡桃の匂いを至近距離で嗅ぐのはおれ、じゃなくてわいの特権や!近寄るな嗅ぐな見るな低級!ああおれ、じゃなくてわいの胡桃が汚されてしまう、じゃなくて汚されてまう〜!!わいが守らな…!」
「この変態どもはほっといてこっちにおいで」
「俺はケロさんに賭けるぜ」
「ほっほっほ、ここはいつ来ても賑やかじゃなあ…」

人型もいれば、異形も、ケモ耳もいる。
そう、念を使えるようになってから、妖怪が見えるようになったのです。な、なんだってー。

これは、私と妖怪の拳で紡ぐ友情物語。(嘘です)



2016/11/06
書いてて、中学時代は自転車通学の時にヘルメット着用が校則で決まってて嫌だったなあと思い出しました。あれ田舎だけらしいですね。
夏目の舞台も田舎らしいので、多分夢主もしてる。

神社に関しては調べはしましたが素人知識です。祖母(山奥)の近く(でも歩きで30分)の神社は町内会で管理しましょう、と決まっているけど実際は一番近い人が定期的に清掃してた記憶があります。でもお礼に色々みんなから貢がれる。

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