「それではイルミ様、クルミ様、お体にお気をつけてお過ごし下さいね」
2匹、いや2人?…まあどっちでもいいけど、屋敷しもべ妖精達は頭を下げて姿くらましした為、このコンパートメントには可愛さと格好良さを兼ね備えた11歳のイルと私だけになった。


何故か分からないけど、ゾルディック家が暗殺一家からドラゴンつかいにジョブチェンジしている魔法の世界で生きて早11年。

ドラゴンに驚き、でもなんだかんだいって魅了されている間に、世間ではヴォルデモート卿こと『ヴォっさん』…じゃなくて『例のあの人』がすごかったらしい。正直外との交流なんてほぼなかったし、闇側っぽいなと勝手に思っていた我がゾルディック家はドラゴン以外の事には興味を示さず闇側にも騎士団にもついていなかったからほぼ知らなかった。闇側も魔法やマグル式の仕掛けだらけな我が家にわざわざ攻撃はして来ず本当に平和だった。…あ、ゾルディック家での平和って普通じゃないよ(真顔)。

それでいつの間にか終わっていたヴォっさん時代にも気付かず、日々鍛錬勉強魔法毒物母の愛りゅうのいぶき…。

唯一の救いはこれが現代に近いことだよね。まあククルーマウンテンには電波も来ないしテレビもないからアニメを見て過ごす事はできないけど、漫画は取り寄せできる!それに私が入学する1989年はなんと!ゲームボーイの発売という…!!歴史を感じる…。
もちろんホグワーツは電化製品が正常に作動しないから、ウィーズリー父のようにバラバラにして魔法をかけて組み立て済みである。一応暇潰し用に持って来たけど、でも魔法学校なんて面白くて探検しがいのある学校で暇が見つかるとは思えない。
でも今は助かった。特急が到着してすぐに連れて来られたせいで出発まで大分時間がある。イルはドラゴンの生態というお気に入りの本を夢中で見ていて私の相手をしてくれそうにないし、特急が発車するまでマリオランドでもしとくかな。



「うわっ!おい見ろよジョージ!チャーリー!パーシー!俺たち並みにそっくりな双子がいるぜ!」

扉から聞こえてきた声に目を向けると赤毛が4つ。
手元の時計を見ると大分時間が過ぎたらしい。
ゲームボーイの電源を切って…ん?赤毛?
ばっともう一度扉の方を見ると、このコンパートメントの扉のすぐそばで話している4人の赤毛の男の子が見えた。
赤毛って…ウィーズリー家?!もしそうなら、家族と住み込みのドラゴンの研究者達以外で初めて見た人が主要人物とか凄すぎる。

何事か話していた4人の中の1人、ひょろっとした子だけが手を振って離れていき、それ以外の3人はこのコンパートメントの扉を開けた。
…何故??

「「なあ!ここ空いてる?」」
双子が同時に聞いて来た。
え、見かけるだけじゃなくて接触までできるとか…運良すぎかよ…!

もちろん私は全然オッケーだが、一応イルミさんも確認してみたところ特に気にしてなさそう。
頷くと、赤毛3人は荷物を持ってコンパートメントに入ってきて、席の真ん中に座っていたイルを挟んで双子が腰掛け、奥に移動した私の横にはがっしりした双子の兄が座った。挟んで座るとかあいつらコミュ力高い…。

「俺フレッド。で、こっちがジョージ。見てわかるだろうけど双子なんだ!君達もでしょ?」
「よろしく。そうだよ、私がクルミで君らの間に居るのがイルミ」

紹介した時にイルが手を上げているのを見て、ちょっと安心した。ガン無視すると思ってたからね。どうやらちょっとは興味を持ったらしい。

「僕はチャールズ、こいつらの2番目の兄さ。チャーリーって呼んでくれ」
私の隣に座った人が良さそうな笑顔を浮かべるこの人がチャーリーならさっきのはパーシーかな。公式でイケメンと言われているビルを見てみたかったけどこれはもしやもう卒業してるのか?
ちょっと筋肉好きの血がざわめきつつチャーリーにも挨拶しておいた。

「俺らあと2人の兄と弟と妹がいるんだ」
「そのうちの1人の兄はパーシーって言って、さっきまで一緒に居たんだけど友達のところに行っちゃったんだ」
「もう1人の兄はビル。今年ちょうど卒業して、今はグリンゴッツのエジプト支店で呪い破りをしてるんだ」
「ビルはパーシーと違って優しくてカッコいいんだぜ!」

こいつらめっちゃ喋る…。相槌を打つ暇もねぇ。

「はしゃぎすぎだぞ。…ところでイルミ、その本僕も読んだことあるよ。ドラゴンってカッコいいよなぁ〜!実際に見てみたい…!イルミはどの種が好きなんだ?」

兄らしく2人の興奮状態を押さえつつ、多分今まで一言も話さなかったイルに気を遣って話題を振ったのだろう。兄貴まじカッコいいな。まあでもうちの兄貴はカッコいい上に可愛いからね!…って、何故張り合ってるんだ。

「ヘブリデス・ブラック種」
「ああ!あいつらは紫の目が凄い格好良いよな!」

イルは本から目を離さずに答えた。まあでしょうね。
ちなみに私もチャーリーと同じであの紫の目が一番好き。
チャーリーはイルミの年上に対して失礼な態度には全く意に介した様子を見せず、更ににこにこしていた。…うちの兄貴頑張れ!

「ヘブリデス?」
「それってイギリスの?」
「ああ。しかも、ドラゴンは訓練や飼育が不可と言われていたにも関わらず、唯一ドラゴンを訓練、飼育する事に成功したゾルディック家が管理しているドラゴンだ」

へえ、ゾルディック家ってこの世界でも有名なんだ。
イルミも自分の家の事には興味があるのか本から顔をあげている。

興味深そうにドラゴンの話を聞いていた双子は、ゾルディックと聞くと更に顔を輝かせた。

「ねえそのゾルディック家ってすっっごい強くてみんなムキムキマッチョって本当?」
え、何だその噂?!

「え、俺は人の形をしてはいるけどドラゴンと同じように鱗が生えてるって聞いたことあるぜ!」
え、何でアルカの事知ってる?!

「あ!あともしゾルディック家がダンブルドア側に味方してたらもっと早く『例のあの人』を倒せてたってママが言ってたけどそんなに強いの?」
「そのあとパパが、『あいつらはドラゴンにしか興味がない。だから味方にならないのは残念だが、敵にもならないのは幸運だ』って言ってたけど、ドラゴンにしか興味ないとかやっぱり人じゃないんだろ?」

魔法界からのゾルディック家ってこんななんだ…。
あとフレッドは何でそんなにゾルディック人外説押しなの?
イルミも目をぱちぱちしながら聞いている。
勢いよく次々聞いてくる双子にチャーリーが困った顔をしている。なんか我が家がすんません…。

「ねえ、イルミとクルミは何かゾルディック家について知ってる?」
チャーリーの返答など元から求めていないのか、双子は次に私とイルに聞いてきた。
知ってるも何も私がゾルディックですが。
どうせイルは答えないだろうし、そんなにゾルディック家に対して負の感情を抱いていないことが分かったから正直に言おうと口を開くが、私よりも早く、珍しくイルが答えた。


「知ってるも何も、俺、イルミ・ゾルディックだから」


発言直後、不自然なまでにコンパートメントから音が消えた。
そしてウィーズリー達がお互いの驚き顔を見合せ、飛び上がった。


「「「えーっ!!!」」」



2015/10/26
チャーリーの一人称は"俺"だと思ってたけど、原作で確認したら"僕"だった衝撃。
11歳の、若くて、疑いを知らず、汚れなきころの双子ってどんなんだ?と思いながら頑張りました。原作で一人称が"僕"だったり"俺"だったりしてあれなんですが、こちらも"俺"で統一しました。でも原作では"僕"のところで"僕"の方がしっくりくる場合は"僕"で。例:両親の前とか、おどけてる時とか

ホグワーツ特急はもうちょい続く。

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