「どこのどなたか存じませんが何とぞ…何とぞ坊ちゃんを宜しくお願い致します」

あの後、すぐに私の存在にも気付いてくれた坊ちゃんと私も抱擁を交わし、田中さんの病室に移動したわけだが…。
やばいこれどうしよう。
明らかに悪魔DE執事さんに目つけられてるよね?!やっべぇよ…これろくでもない死亡フラグだよ…!これからもミッドフォード家に身を寄せた方が安全じゃね?ああでもあの家の人達は『私達の事は気にせず行きなさい』とか言いそう…!あれこれオワタ。

「クルミ」
「はい」
「私も退院したらすぐにお屋敷に向かいます。それまでセバスチャン殿と共に坊ちゃんを任せましたぞ」
「…はい」

あああああ!返事が遅れたけど私は悪くない…!一瞬にやっとした悪魔が悪い…!
やべぇよ、こえぇよ、ファントムハイヴにはせめて田中さんと共にまた戻りたいよ…!

「宜しくお願い致します、クルミさん」
「…はい」

なんかもうターゲットロックオン☆されてる。オワタ…。

「ああですがクルミは今、ミッドフォード家に世話になっている身。きちんと挨拶をし、且つ坊ちゃんがお戻りになられた事を伝えるべきかと」
た、田中さん…!あんた…やっぱ最高だよ…!多分、私の気持ちに気づいたとかじゃないとは思うけどナイス発言!

「そうかミッドフォードに…。頼むぞクルミ」
坊ちゃんは田中さんの献言に一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに頷いてくれた。

「お任せを」
坊ちゃんのお許しも出たことだし…当分の間ミッドフォード家にひきこもろ。







「え、あの、ですからそんなすぐに出発だなんて…。お世話になった分のご恩がまだ返しきれておりませんし…」
「それはシエルを支える事で返せ」
「…分かりました。ですがせめて旦那様、坊ちゃん、お嬢様にご挨拶させて頂いてからでも宜しいでしょうか?」
「それは私から伝えておく」

取りつく島もねぇ…。
侯爵夫人のさっぱりしている所は好きだが、さっぱりし過ぎだろこれ。
まあ、侯爵夫人は多分シエル坊ちゃんの心配をしてるからこそ私を早く戻そうとしてるんだろう。でも言ってやりたい…!超絶ハイパー強い執事がついてるから多分大丈夫だって…。
まあこうなったらゆっっっくり荷物の整理をして、旦那様が帰ってくるぐらいまで粘ろう。旦那様はとっても優しい、優しすぎる人だから多分暫しの別れを惜しんで少しは引き留めてくれるはず…!そしてお嬢様が『最後なら今日はクルミと寝る!』って言ってくれるだろうから、とりあえず明日の朝まで引き延ばせるな。そして明日になったらお礼と言って屋敷中をくまなく掃除しよう。うん、とりあえずこれで何日かいけるな。
そんな結論に至った私の前にいびりメイドその1がドサッとハンドバッグくらいの大きさの荷物を置く。
これは…?
夫人はいびりメイドその1を下がらせ私と視線を合わせこう言った。

「荷物を纏めさせた。我が侯爵家の事は気にしなくていい。早くシエルを支えてやれ」

まじで取りつく島がねぇ…。







夫人は馬車まで貸してくれようとしたが、そこはせめて歩いて少しでも時間を稼ぎたかった為断固辞退した。

そんなこんなでもう夜中。
こんな時間に帰ってもお屋敷は廃墟同然だから坊ちゃんは近くの宿に泊まっているだろう

うーん…。私はお屋敷跡地で野宿すっか。できるだけあの執事に会うまで時間を稼ぎたい。

…って、え…え!?
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
「おれは火災後そのまま放置されていた廃墟に着いたと思ったら、いつのまにか新築同然のお屋敷の前にいた」
な…何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何が起きてるのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
催眠術だとか迷子だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

と、茶番は置いといて。
悪魔が作ったんだっけ?すげーや。ゾルディックオリティをもってしても流石に一瞬でお屋敷作るとか無理だし。
でも良かった、これでこのお屋敷の適当な場所で寝て、明日朝一で坊ちゃんに挨拶しに行けばいいや。

お屋敷に一歩近づいた時、あの禍々しいオーラが建物から出てこちらまで近づいているのを感じ、臨戦態勢を取る。いや味方なはずだけどさ?気づかなかったとか言って殺されそうじゃん。

予想通り容赦なく脳髄目掛けて凄い速さで飛んできたナイフの持ち手を掴んで、私の背後から心臓を狙った執事の持つナイフの攻撃を弾く。
弾かれたせいで少し態勢を崩した執事の驚いた顔と目を合わせながら、また攻撃に入られると面倒なのですぐにナイフを手放し両手を顔の横に挙げて降参の意を示す。

「あの、クルミです!セバスチャン殿、攻撃をやめて下さい」
私が声をかけてから、ゆっくりとではあるが右手に持っていたナイフを下ろしてくれた。

「よく、私が攻撃していると分かりましたね」
「え、あ、気配で…」
お前以外にそんな禍々しいオーラのやつが居てたまるか。

「…私の気配は他と違うと?でしたらクルミさん、貴女は何なんですか?貴女の魂、私ですら見たこともない形状ですよ」
「た、魂とか何言ってるんですか?」

クスクスと妖艶に笑いながら執事は私に近づいて来て、そっと耳元で囁いた。


「それに、気付いていらっしゃるんでしょう?」


「私の正体に」



2015/10/03

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