「和服も洋服も似合うから迷うわぁ。クルミちゃんはどれが一番好き?私はやっぱり最近お気に入りの着物をお揃いで来て欲しいわ!初めは動きにくいけど慣れたら大丈夫。ああでも若いんだからヒラヒラしたものや裾が短いものがいいのかしらね…。どう?気に入ったものがあった?なかったら遠慮なく言ってね。クルミちゃんが気に入るデザインを考えられない無能なデザイナーを殺して新しいデザイナーを呼ぶから。ああでももう明日なのよね?間に合うかしら…。ああもう!あの人がもっと早く教えてくれてればもっと時間ができて最高の一着ができてたのに!最低でも半年は必要だったわ!それなのに最終調整だとかで訓練訓練訓練!まあ訓練は沢山すべきですけど、でもクルミちゃんは女の子なんですからね!初めての服は気をつかってあげなきゃ、ねえ?ああクルミちゃん、次はこれを着て。あなた、髪型も服装に合わせて纏めてちょうだい。でも初めてなんだから動きやすさを重視してドレス系がいいのかしら?だったらティアラも…その服に合うティアラは買ってなかったわね。そこのあなた、今すぐ今クルミちゃんが着ているドレスに似合うティアラや装飾をいくつか私の部屋から持って来てちょうだい。あら、それも素敵ねぇ。でもさっきのも似合ってたわよ。ああそうだ、クルミちゃんはどれが好き?」

日本語で、お願いします…。


記念すべき初仕事を明日に控えた今日。いつものように起きてイルと走って、ご飯を食べて、訓練をしていた私を、いきなり現れた母は拉致って今に至る。
最初から興奮している母さんを止められる訳がなくなすがまま人形さんである。
もうもはや尊敬しますよ。だってノンブレスで喋りながら服を見て指示をして怒って…。

ただ母さんや、いつもの服より派手な上にフリフリしてるし装飾も凄いし色もカラフリーだしでこれ明らか暗殺向いてないよ。落ち着いて…なーんて言えるわけがない。言っても聞こえなかったことになるか、泣きながら激しく女の子への憧れを語り続けることになるからね、多分。いや絶対。いいさ…ここで私が我慢することで一人の命(デザイナー)を救えるんだから…。

でも母さんは、さっき私へ質問したはずなのに返事も聞かずもう既に大きすぎる独り言に戻っている。
返事いらんのかい。

もうどうしよう…。
午前からぶっ通しで着せ替えされていって残った服達を見ると、どこのお嬢様だよってくらいフリフリラブリーなドレスや、着物は着物でも十二単レベルの重ねさせられたもの達しかない。なんかウェディングドレスみたいなデザインがましに見える不思議。
いつもの服なら、ここから更に(母さんが)熟考し(母さんが)決めるが、しかしこれは仕事着である。初めての、しかも今後も仕事の度に着せ替え人形になるのを回避する為に着続けるようになるかもしれないのだ。それがこんな豪快派手邪魔目立つの4拍子揃った服になるとか絶対やだ。
でも文句を言っても聞き入れてもらえるか分からないし、聞き入れてもらったとしても面倒な展開しか待っていないし、最悪は罪のない人の首が飛ぶことになる。

なんだコレ、どうしたらいいんだコレ。…木ノ葉丸みたいな弟ができて私を癒してくれないかな…っていかん。目を背けたらロリータのクルミ、みたいになんか厨二感溢れる通り名をつけられるかもしれない…。似合うから絶対可愛いって分かってるけど何か嫌だ。家で着るのと外で着るのはやっぱり違うし厨二感半端ないし。

でも本当にどうしよう…。
一番いいのは、頑張ってこの中からマシなのを見つけて母さんに強く訴える事か………うん、ないな。この中にマシなのなんか見当たらないよ…。

最終手段は実力行使で母さんを黙らせる方法か…。母さんは私やイルに完璧に力でねじ伏せられたりすると周りが見えなくなる程の成長への喜びで硬直するからそこをついて逃走…。
でもこれ後々面倒になるんだよね。

あああああ!どうしよう考えることが面倒になってきたあああああ!けど考えなくなったら凄い服着させられそうだしあああああ!!

そんな私を全く介さず母さんは更にクローゼットを漁って新しい服…拘束衣…!?!?C.C.みたいな、というかすっごいC.C.。え、本当にどうなるの、母さんは私をどうしたいの?!?!やばいぞコレ!!!

しかし神は私を見放さなかった。今着ているドレスを脱がされながら拘束衣を取り出す母さんを茫然と見ていた私の目に一筋の光が見えた。


2015/10/10

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