「お題にそって短歌を作ってみましょう。ラスト七文字を『触手なりけり』で締めて下さい。書けた人は先生のところへ持ってきなさい。チェックするのは文法の正しさと触手を美しく表現できたか。出来た者から今日は帰ってよし!」

早く帰れる…だ、と…!?フ、フハハハハッ!!私の本気を出すときが、やっと来たか…!疼く…長らく封印していたこの力が疼きやがるぜぇ…!
なんて厨二病ごっこを脳内でしつつ、私の手には課題に必要な紙とペンではなく右手にスマホ、左手には下敷きが握られている。それにこの課題は結局変更になるしやるだけ無駄無駄無駄ア。

茅野ちゃんが先生に質問してるのを見ながらスマホをムービーモードにしてスタンバイ完了。よし、いつでも動いていいよ渚くん。

私のGOサインが聞こえたかのように丁度よく席を立ちあがった渚くんは、紙の後ろにナイフを隠して一歩ずつ先生に近づいていく。
結果を知ってるくせにクラスのみんなと一緒にドキドキしながら渚くんを見守りつつ、タイミングを逃さない為に今から録画を開始する。
録画ボタンを押すと同時に渚くんはナイフを取り出し先生に襲い掛かった。なんか…言ったら何様だって感じだけど…おっっっっそ!まあ元エリート暗殺者様だから言いますけどね!
もちろんそんな遅くてただ突くだけの攻撃が当たるわけもなく先生に腕を抑えられ攻撃は軽々と阻止されていた。

「…言ったでしょう、もっと工夫を」
しかし攻撃を阻止しきってさらに油断した先生に渚くんが抱きつき、そして爆発。
危なくはないけど当たるとまあまあ痛い弾が教室中に散らばった。もちろん準備していた下敷きで防御は完璧だ。
というかあの方法怖い。自爆怖い。殺気を隠してあんな風に通行人が抱き付いてきたら…念がなかったらやば…くないな。あれなら振りほどいて投げ飛ばせるな。良かった解決。それに今回は1度攻撃を防いだだけで安心した先生が悪い。攻撃を防いだらすぐ距離取れよ。

「ッしゃあやったぜ!!百億円いただきィ!!」
「ざまァ!!」
「まさかこいつも自爆テロは予想してなかったろ!!」

教室の困惑した空気も読まず大喜びしながら前へ走っていく馬鹿達。ちゃんと確認してから喜べよ。
茅野ちゃんとの言い争いのあとやっと下の渚くんの現状に気づいた馬鹿達。そして上から声が聞こえ、やっと暗殺の失敗に気付いたようだ。

「実は先生、月に一度ほど脱皮します。脱いだ皮を爆弾に被せて威力を殺した。つまり月イチで使える奥の手です」
…なにあの真っ黒な顔こわい。おこ…いや、これがかの激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームってやつなのか?むしろ、てめーは俺を怒らせた状態か。
人とか食べそう。…なにそれこわい。

みんな初めて見る先生の顔に息を呑んでいると、先生は分かりきったことを確認した。
「寺坂、吉田、村松。首謀者は君等だな」
「えっ、いっいや…渚が勝手に」
往生際わっる。…いやでももし私が寺坂の立場でも頷かないかな。なんかがちで食べられそう。…人間食べれるのかな…。
なんだか可哀想に見えてきたが、私の右手はきちんとズームして怯えた表情の3人を順に撮している。
しかし、そんな3人を順に撮すという少しの間に先生は教室を出て帰ってきた。そう、全員の家の表札を抱えて。

…おいどうするこれ、我が家のもあるぞ。

「政府との契約ですから、先生は君達に危害は加えないが、次また今の方法で暗殺に来たら、君達以外には何をするかわかりませんよ。家族や友人……いや、君達以外を地球ごと消しますかねぇ」
なにそれこわい。でも私達は食べられないっぽい。よかた。
しかしこの言葉を聞くと、ど素人にふいをつかれて奥の手を使ってしまいプライドズタズタにされ逆上した、みたいじゃん?しかも同じ手を封じるとか…内心ビビってるみたい、だけどそんなまさかね!

なんか良いこと言ってるっぽい先生の言葉を聞き流しながら、がち泣きしている寺坂をきちんと携帯に納め録画を終える。

人に笑顔で胸を張れる暗殺って…そもそも人を殺すことが罪だと言われてる社会において、暗殺が人に笑顔で胸を張れるものなわけないじゃん。人を殺しておいて笑顔で胸を張ってる人間なんてろくでもないクズだよね。ゾル家の連中とか、ゾル家の連中とか。ヒソカは強者との戦闘を求める系ど変態で、弱い普通の人を殺しても何にも思わないから除外。

…なんだか胸くそ悪い。いや、初めから暗殺者を育てるというこの教室のスタンスがゾル家みたいで、でも暗殺に対しての心構えなんかは同じようで全然違って…そう、もやもやする。
この胸のもやもやを先生に伝えたら、あの元暗殺者はなんと答えるのだろう。
私はどんな答えを求めてるんだろう。

2015/07/10

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