あの日、全てを無に返さんとばかりに燃え盛る炎を、同じくらい真っ赤な髪の女性と見ながら真っ先に思ったのは、主人達の心配ではなく、結局何もできなかったな、とただそれだけで。
でも、知っていたのに何もしなかったのは、この出来事こそが、彼の、これからのシエル・ファントムハイヴの物語の始まりであり、なくてはならない復讐の種であり、正しい物語の流れだから。…なんて心の中で言い訳をしながら、でも、ふと、もうあの子達の純粋な笑顔を見ることも、奥様の優しさに触れることも、こんな私の全てを受け入れてくれそうなあの人ともお別れなのだ、と思ったら、寂しいな、と思う私もいて。
本当に感情というものは厄介だ。


…………なーんてセンチメンタルなことを考えていた時期が俺にもありました。…久しぶりにバキ読みたくなったな。…いますぐ!未来に!!行きたい…!!!

と、こんな風にすぐ思考が脱線するくらいにはどうでもいいとも思ってるんだから、乙女心はまじで秋の空状態。…ってなんか使い方違う?
まあやっぱり、私より強いかもしれない死神や悪魔がうじゃうじゃ居る世界では、原作を知ってる事が第一だよね。

「クルミ、ミッドフォード様のお屋敷はどうですか?」
「はい。顔見知りとは言え、紹介状もなしにいきなり雇われた新参ものの私にみなさん良くして下さいます」
「そうですか。それは良かったです」

車椅子のようなものを押しているから顔は見えないけど、優しい笑顔を浮かべてるんだな、と分かるくらい優しい声にホロッとしそうになった。
ほんと、田中さんまじおじいちゃん。

紹介状もないのに雑役女中から家女中に昇進し、あまつさえ優しいミッドフォード家の人達は、主人がいきなり全員亡くなった私を憐れんでたびたび気にかけ本当に良くしてくれるのだ。そして私だけ、元々の普段着だったからと言ってメイド服ではなく常にチャイナ服の着用の許可が出ている。そんなの元々使えていた人々が良い顔するわけがなく、当然いびられていた。仕事の足は引っ張るわ、ありもしない噂を流しまくるわ、そのせいで執事に襲われそうになるわ…。可愛いって…罪ね…。と数日間は我慢していたけどこんなに続くと流石に面倒。
坊ちゃん後どれくらいで帰ってくるんだったっけ?

田中さんと談笑しながらそんな事を考えていたからか、明らかにヒソカよりも禍々しいオーラを前方から感じ、警戒しつつ探ってみると待ち望んだ坊ちゃんが、居た。

「あ…ああ…!!」
「じいや!?」
「坊ちゃん…っ、坊ちゃん!!よくぞ…よくぞご無事で…!」
感動の再会である。
野次馬の中には、事情は全く知らないだろうが涙目になっている人も居た。
かくゆう私も涙目である。これで…いじめとおさらばだ…!
しかし挨拶するタイミング完璧に逃したな…。
"おいおいお二人さんよぉ、俺を忘れんなよ?"か"7年ぶりの感動の再会シーンで木にぶつかったの、たぶんボクくらいだよ…"のどっちを言うべきか…。

というか、私がどうやって二人の間に入るか考えている今、いや、その前の警戒モードに入った時からずっっっと禍々しいオーラの人が見てるんですけど!すっごい視線を感じるんですけど!
流石に無視し続けられず、ちらっと目線を合わせた時、私はこの世界に生まれて初めて寒気がした。


そこに居た執事は、私と目が合うとそれはそれは愉しそうに、悦ばしそうに、わらったのだ。まるで悪魔みたいに。



2015/10/03
念は全て使えるチート仕様でお届けします。
知識あり。

一応簡単にまとめた、本編で出てくるだろうメイドの役職(19世紀イギリス)+用語↓
雑役女中:全てのメイドの仕事を一手に担うハードな立場。安い賃金の為にすぐ雇用を切られる悲しき最下層メイド。
家女中:一般的に知られているメイドの事。午前は掃除、午後は接客や給士。午前と午後で衣装チェンジする下級メイド。
家政婦:トップおぶメイド。女主人の代わりに家政を管理。
紹介状:奉公先を変える時に必要なもの。メイドの評価を主家の人が書く。メイド界で昇進したかったり、良い雇用先に雇われる為には、これにマイナス評価を書かれないように努力するべし。

19世紀の使用人面白いです。

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