あの謎の、オラわくわくすっぞ!状態から大分落ち着いて、家からも大分離れたところで歩くペースを落とし、今後どうするか判断する材料である手荷物を確認する。
そもそも呼び止められなければ出かけるつもりだったので、一応普段持ち歩いてる全財産、にぼし、食料、水、着替えの服と下着は鞄に入っていた。
その中からにぼしの入った袋を取り出し、いつの間にか私の横を歩いていた猫2匹に差し出した。ぬこかわいい。

もちろん服装は、修業用に動きやすい服、というか前の世界でずっと戦闘服として着てきたチャイナ服だ。この島にはチャイナ服を着る習慣なんて一切ないから目立ってる感半端ない。でもこの服が一番落ち着くししっくりくるからしょうがない。
お店で見つけてその場で衝動買いした中でも一番お気に入りの赤を着てるというのも気分が良い。しかも着替えに持って来たのがその次にお気に入りの青とか、今日という日に運命を感じる。冒険に出るべくして出た日みたいな。
変態神父に感謝、はやっぱりしたくないな。忘れよう。

さて、どないしよう?
この島はそんなに広いわけではないから、もし女と変態神父が私を探していたら見つかる。こんな島から浮いてるチャイナ服の幼女見つからないという方がおかしい。ウォーリーを探せより簡単だ。だから、宿に泊まるという選択肢はない。
理想としては、とりあえず大きくて海賊に襲われても負けないくらい強くてちゃんとした航海士がいる船にこっそり乗って違う島に行けたらなって……うん、こんなやついたら、そいつは海軍の将校クラスやないかい…。この島に運良くいるはずないわ…。

やっと興奮が落ち着いて、今後について冷静に考えようと足元にすりよってきた猫のうち1匹を抱き上げてまた歩き始めた時、前から来た人にぶつかってバランスを崩し後ろに倒れかけたが前から伸びてきた腕で抱えられて転ばずにすんだ。完璧に前方不注意だった私の責任だ。なのに助けてくれるとか…逞しい腕に抱かれながら少しドキドキした。

「ごめんなさい」
手が背中から離れたと同時に頭を下げて謝る。
「いや、こちらも前方不注意だった。怪我はないか」
いい人だ…!この世界にしては珍しいいい人だ…!なんだ、今日って運勢最高なの?

大丈夫です、と言いながらこのいい人のお顔を拝もうと顔をあげたら、あらイケメン。
鋭い金の目に凛々しい眉。年齢は20歳くらい。晒されているお腹は惚れ惚れするような綺麗な筋肉がついている。腰に提げている刀も、一目で良い刀だと分かった。
それに何より多分強い。というよりオーラが強そう。この世界風に言うと覇王色の覇気持ってそうな感じ。
こんなイケメンとぶつかれるなんて、本当に今日は最高な日なのかもしれない。

「ほう…」
ぼーっと目の前のお兄さんに見とれていた私だが、お兄さんもお兄さんで私を目を細めてまるで品定めをしているかのように見て呟いた。
え、何?というかさっきも思ったけど、良い声してますね!耳もとで囁かれたら落ちない女はいないんじゃないですか?あとでっかい。いい加減首が痛くなってきた。

「その格好、その歳で旅でもしているのか?」
え、会話してくれるの?こんなイケメンのお兄さんと喋れるなんて今日は本当に最高だな。今までの不幸の分、一気に幸せが来たみたい。
「いえ。あ、でも今日から旅に出ようかと思っているところです」

あ、ちょ、5歳にしては喋り方大人すぎた?
クルミたんねぇ、今からおふねに乗ってとぉーっくへ行くんだよお!
とか言うべきだったか?普通の5歳児が分かんない。あれ、これ前の世界でも思ったぞ。

「……ならば、船に乗せてやろう」

うぇっ?!まじで?!この覇王色の覇気持ってそうなイケメンのお兄さんの船に?…なにそれ、さっき言った"大きくて海賊に襲われても負けないくらい強くてちゃんとした航海士がいる船"に乗ってそう。この島にいるとかなんだそれ、もはやでぃすてぃにー(混乱)
なんだこれ本当に運命なの?この出逢いは運命?この世に偶然なんてない、あるのは必然のみって侑子さん言ってた。てことは必然?

思考すること数秒、いや考える前からこの胸の高鳴りで分かっていたのかもしれない。私は迷うことなく首を縦に振っていた。


お兄さん曰く、食料調達も済み、ログポースも次の島を指していて、今はお兄さんはすることもないから何となくぶらぶらしていたらしい。しかも出発は今夜。一応大丈夫か確認されたが、こちらとしては逆に好都合すぎて怖いくらいだ。一も二もなく頷いた。
私の最終目的地はイーストブルーだけど、今はとりあえずこの島を出る事が一番重要なので、まあ次の島までは乗せてもらおう。
それにしても本当にぶらぶらしているところで偶然ぶつかって船に乗せてもらえるなんて…運命感じる。まあ、お兄さんからしたらこんな5歳児に運命感じられても困るだろうが。
…ん?そもそもこのお兄さんは、何で私を誘ったんだ?いい人だからか。納得。…しちゃ駄目だよ!!本当にいい人ならこんな可愛い幼女(事実)を船に誘わず家に帰りなさいって言うよね?え、このお兄さんまさかロリコン…?
まあ、だとしても大丈夫。いくら強いお兄さんでも私の方が強いって勘が言ってる。もしもの時は、念使って逃げよう。

なんてお兄さんの後についていきながら、お兄さんがもしもロリコンや危ない人だった時の対処法も考え付いたころ、入り江の端っこの大きくて頑丈そうな船の前でお兄さんは立ち止まった。
一応円で確認したところ、私と同じくらいの少年少女が集められてるようなこともなく、ただただ人々が慌ただしく出航準備をしている貿易船のようだった。お兄さんより格段に弱いが、他にも何人か傭兵のような人を雇っているみたいだ。
これは本当についてる…!気分はまさしく、ありがとう、そしてありがとう!という感じだ。

そうしてこれから次の島までの短い間ではあるがこの船に乗るんだと思いながら何となく船に触っていると、お兄さんから訝しむような声がかかった。

「何をしている」
やっべ、本当に初めてのことだらけでテンション上がりすぎて自分が何がしたいか分からない。船に触るとか何してんだ自分。

「っすみません」
慌てて手を離して、船に乗る為に降りている梯子に手をかけた。

「だから、何をしている」
「えっ」

そんな言葉と共に梯子にかけた手を握られ引っ張られた。私の癒しのにゃんこが危なげもなく地に着地した。あ、もしかして新入りのくせに俺より先に登るんじゃねぇ的な?それは申し訳ない。なんだか微笑ましくて菩薩の笑み、アルカイックスマイル炸裂の私だったが、握られたままの右手が引かれた先を見てその笑みも一瞬で消えた。

「行くぞ」
「………はあ!?」
「…ん?」
「ん?じゃないですよ!こ、これ」

驚きのあまり震える左手をなんとか持ち上げて、私は目の前の認めたくない光景を指差す。

「小舟じゃないですか!」
「?ああ」
「何、見たら分かるだろみたいな顔してんですか!こんな小舟でグランドラインを航海とか無謀ですよ!!今までよく生き残れましたね」
「天候をよむのは得意だ」
「あ、そうなんですか。え、そうなんですか?」
「ああ、実際グランドラインの前からずっとこの船で航海している」
「なにその運。あとこれ船じゃないんで、小舟なんで。そこんとこちゃんと認識して下さい」
「ああ、分かった。行くか」
「えっ、ちょっと待って分かってない。全然全く分かってない。こんないつ沈むか分からない小舟で航海なんてしたくない」
「…ぐずるな」
「うわっ」

お兄さんとの言い合いに夢中で油断していた私を、お兄さんは肩に乗っけてそのまま小舟に乗り移り小舟と港を結んでいたロープを切った。
だがそんな事で負ける私ではない。確かに能力者もどきだから海に沈んだらお仕舞いだがこの距離ならまだ陸にも戻れるし、隣の安心感溢れる船にも乗り移れる。
私を肩に担いだままのお兄さんが剣を腰に戻したのを見計らって、右手で思いっきり背中をぶん殴った。突然、念は使ってないとはいえ私が思いっきり殴ったのだ。ぐらついたお兄さんの肩から降りて先ずは陸へ戻ろうと跳躍しかけた私は、しかし思わぬ事態にぴたりと止まってしまった。

「クルミちゃーんっ!」
変態神父だ。変態神父がいかにも知り合いの子が行ってしまうのを慌てて止めに来たみたいな顔でこの小舟に向かって走ってきていた。まだすこし距離はあるが、ここでぐずぐずしていたら追い付かれるくらいには近い。

「クルミ?お前の事か?」
「おおおおおおお兄さん!全力で逃げましょう!ええ、この奇跡の船で!」
変態に捕まるのだけは嫌だ!この時の私は変態なんて一撃で倒せるにも関わらずただただ逃げる事しか頭になかった。
私の後ろで変態神父に目をやり、訝しげな顔をしているお兄さんの右手を両手で握り(というか手の大きさ的には添えてが正しいかもしれないが)、小舟に乗る覚悟を伝えた。

驚いた顔をしたあと、私の両手が添えてある右手に視線をおとしたお兄さんは、夕日に似合う、本当に最高に不敵に無敵な笑顔を私に向けてくれた。今日一番の衝撃的な台詞を添えて。

「おれの名前はジュラキュール・ミホーク。行くぞ、クルミ」

お兄さんの胸元の金色のロザリオが夕日に反射してキラキラと光る。
そうして私は気付いたのだ。この運命のようで偶然のようで必然のような冒険の、壮大さに。


2015/06/13
夢主はこんなに慌てているけど、無表情なんだぜ…?
お金は、母親に貰ったものではなく、絡んできた変態を成敗して慰謝料として盗ったものです。まあまあな額あります。

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