「胡桃さん!僕、漫画家になるです!」

隣人でしかも近所で唯一の年が近い子であるエイジ君を、漫画が語れる友にする為に幼い頃から漫画を読ませてきた。その結果、私の目論見通り、いやそれ以上に素晴らしい漫画友へと成長してくれたエイジ君。果てには自分で漫画を書き出し始める程に。
自分で描いた漫画を「胡桃さんに一番に見て欲しいです」という可愛い言葉つきで目を輝かせて私の所に持ってくるエイジ君に悶えつつも、いつも褒めて「将来は漫画家さんかな?」とか言ったりしてはいたが、本当に漫画家を目指すとは…。まあ、実際エイジ君の漫画は面白いし才能もある気がするしなれるんじゃないかな。漫画は好きだけど漫画家については詳しくないからなんとも言えないけど。
無難に「おお、頑張ってー」と読んでいる途中のジャンプから目を離さずに告げる。

「だからもし漫画家になれたら、僕と結婚してくださいっ!」

思ってもみなかった言葉に、ジャンプから一瞬顔をあげてこちらを真っ直ぐ見つめているエイジ君と見つめ合う。
…あれか、幼い頃近所のお姉さんに憧れを抱くあれか。自分がそんな対象になろうとは夢にも思わなかった。
まあ、この世界での両親にはあまり似ず、ゾル家の頃と同じ猫目でさらさらの黒髪な私可愛いもんな!いやーまいっちゃうね!でもこれどうせ恋とかじゃなく憧れなんでしょ?こっちが本気にしてもが成長したらあっちは忘れてるやつでしょ?
適当に流しとけば良いよね。
コンマ数秒で決断し、手元のるろ剣の続きに視線を戻した。

「そんな風に言ってくれて嬉しいなー。でも漫画家ってそんなに甘い世界じゃないと思うよー?まあ成功したら、またその時にでも聞いてあげようではないか」
「成功ってどういう感じです?」
「うーん、…漫画で稼げるようになったら、かな?」
「シャキーン!了解です!」

この時、アニメ放送中の超ヒーロー伝説を見て気づくべきだったのかもしれない。この世界のこと。そして隣人の新妻エイジのことを。


2015/02/21

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