どうしてだか分からないが赤に目を奪われる事数秒、私は近くを通った鳥の声でやっと我に返った。

な、なんだ今の…?いつもなら致命的であり得ないほど固まってしまったんだけど。でも何でか相手も固まってるからまだ襲われていない。

…ん?相手?
赤にしか目を向けていなかったが、改めて目の前のライオン(仮)を確認する。

よく見るまでもなく相手の正体は分かった。私の外見年齢より少し上くらいのただの少年である。…まじかー。私のお腹はもう肉だと決まっていたというのに。人はお呼びじゃないのだよ。

数秒前に金縛りのように体が動かず目が離せなかったのが嘘のように私は目の前の赤から視線を外し、さっきまでと同じように森に背を向けて砂浜に座る。
あー、余分な体力使ったわ。今度はもっと円の精度を上げて動物を探しに行くか。でも歩くのだるいよ座ってたい。

取り合えず円だけでもしようとして気がついた。
先程の赤髪の少年はまだ私の背後付近に居て、そしてじっと私の背中を見つめている事に。
…なんなのこの子。最近は男の人が女性をじっと見るだけでもセクハラと叫ばれるんだぞ。気を付けなっ!
今は人には特に用事はないから、早くどっか行ってくれないかなあ。それか用があるなら話掛けてくれないかな。

背後の少年を気にしつつ、でも自分から声を掛けるのも第一声を考えるのが面倒だから嫌だし、振り向いたら何だか負けのような気がして、なんだか微妙に気まずい空気が出来上がりつつある空間に、砂の上を歩く時に生じる独特の音が響いた。

良かった…。どっか行ってくれたの、ってんん?え、なんで近づいてくるの?え…私から話し掛けるべきなの?
そして無言のまま私の背後をとった少年は私の脇に手を入れて私を持ち上げ、右手はそのままで左手を膝下に入れいわゆる"お姫様だっこ"をしてきたのである。

!?なんだ、これ…
えっ、抵抗した方がいいの?でもこの子悪い子には見えないし、そういう人達に感じる空気もしないんだけど。
それにもしかしたら、いきなり記憶喪失になっただけであって、この人は家族や知り合いなのかも。あ、なんかありそう。私の所に一直線に来てたわけだし。
あと何だかニート生活をすると決めてからスイッチがオフになってるのか、歩くのさえダルかったから正直ありがたい。知り合いじゃなかったとしても、このまま人がたくさん居るところまで連れてってくれないかな。

よく分からないながらも、惰気満々な私は少年にだっこされたまま連れられて森を抜けると、そこには少年よりも年上の青年2人が居た。

「あ!マスルール、いきなり走り出してどうしたん…え………?」
「ん?…………」
「…………」
「…………」
2人はこの私を何故かここまで抱えて連れてきた少年を発見してホッとした表情を見せたが、すぐに抱えている私に気付き顔いっぱいで驚きを表した。

そして、私も2人の顔やマスルールという名に内心驚きだらけだった。
なんか知ってる…!あたいこの人達知ってるよ…!ていうか見たことあるよ…!
この人私が知ってるのよりちょっと幼いけど葉王…ミスった覇王じゃね?!
そして同業者のジャーファルさんじゃね?!
そんでマスルールって事は、この少年ファナリスじゃね?!

なんてこった…!マギとかやっぱり神は鬼畜だった。いや、この世界に、神なんていない。…今日は00の日なのか。

驚愕を隠しもせずに同業者(仮)は少年につめかける。
「……マ、マスルール、その子は…?」
「そこに居ました」
「!?拾ってきたんですかっ!?親が探しているかもしれませんよっ!もとの場所に置いてきなさい!!」

なんか、拾ってきた犬猫を飼いたい子どもと親みたいな会話だな。
だけどこれでこの人達と私が家族や知り合いであるという可能性はなくなった。
…ていうか私拾われたの?え、この少年には私は人間じゃなくて犬猫のようなものに見えてるの?…なんだそれ、どういう思想してるの…て、いや待てよ。ちゃんと世話してくれるならありじゃね?だってそれってほぼニートみたいなものだよね?素敵なんじゃない?
少年がどう返答するのか気になって顔を上に向けたら、目が合った少年は抱えた私の耳元に内緒話をするかのように初めて私に話掛けてきた。
「親が居るのか?」
「…居ません(多分)」
そして問い掛けてきた後に自分の耳を私に向けてきたので手でメガホンを作り返答する。

私の返答を聞き小さく頷いた赤い髪の少年はまた例の覇王(仮)と同業者(仮)に向き直った。
「居ないならなんの問題もないっスよね」
「いやあるだろっ!!!?」
「まあまあ、落ち着けジャーファルよ。マスルールその子の名前は?」

同業者(仮)よりも落ち着いている覇王(仮)は当たり前の質問だというかのように問い掛けてきたが、その質問に固まる少年。そして固まる少年を見て固まる同業者(仮)。

私にもう一度目を向けてきた少年に、イルミで鍛えられた私はなんとなく名乗れと言われているのかなとあたりをつけ、少年だけではなく青年2人にも聞こえるように名乗った。
「…クルミです」

「名前も知らないなんて…!?私はマスルールを子どもを浚ってくるような変態に育てた覚えはありませんっ!!」
「落ち着けジャーファル」

発狂し出した同業者(仮)とそれを慰める覇王(仮)を見つつ思った。あれ?なんか選択ミスった気がする…と。


2015/01/20
設定など
・マスルールくんが剣奴から解放されて数年
・クルミさんはいろいろな世界に行って疲れています
・色々と正常な判断力が欠けてるのも疲れのせい
・テンションの上がり下がりが激しいのも疲れのせい
・念は全て使える
・現時点での身体能力などはゾル家時代の迷子主のまま
・多分最強だけど本気出すのは来世ってくらい何もしない
・ギャグ
・でも所々ラブコメの波動を感じる
・マギは既読だけど、シンドバッドの冒険は未読
・赤はあの人の目を思い出してます(他世界)

書いてて幼女×ならマスルールくんよりもシンドバッドさんの方が似合う気がしてきました。でもマスルールくん落ちにしたいので変態ロリコン王案は却下。
この続きはマスルールくんの話がシンドバッドの冒険の単行本に載ってからですね。

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