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・過去編『保管はお子様の手の届かない場所で』のあと
・ネタで考えてた会話に文章をちょろっと足したもの


「ねぇ、オレの能力どんなのがいいかな?」

それはいつも一緒に食べている夕食時の事でした。
イルの質問になんて返そうか考えつつ口の中のステーキを咀嚼し、飲み込んでから答える。

「…そういうのって自分の直観とかが大事だって父さん言ってたよ」
「でもクルミの意見も聞きたいなって」

そう言いながら首を傾げて上目使いで尋ねているかのように見える仕草と、珍しくイルに頼られたのとのダブルコンボで一瞬呼吸の仕方を忘れるくらいの衝撃が走った。もしこれに微笑みがプラスされていたら爆死していた気しか、しない…!
興奮を冷ます為に目の前の水を一気に飲む。
全くイルミさんは最高だぜ!

で、能力の話だったよね。
うーん、どんな能力っていうか、やっぱりイルミといえば針だよね。……でももし私がここで針以外をプッシュしたらどうなるんだ…?
例えば……お札とか?キョンシーを操るイルミ。…あれ、違和感仕事しろ。…じゃなくて、なんだこれ責任重大じゃん…!
でもこういう能力って、人に提案されたものより自分で思いついたものの方が良い気がするんだよなあ。
…よし、針とは明言せずに、さり気無く針に誘導する方向でいこう。

手に持っていたフォークとナイフをテーブルに戻してきちんとイルに向き合う。
「まず、人と物どっちを操るかは決めた?」
「んー、人、かな。暗殺する上でターゲットの周りの人間を操れたら便利だし」
「そだね。人を操るなら、操るターゲットに何か刺したり貼ったりして操作するのが一番楽なんじゃない?(あっ貼るって言っちゃった)」
「やっぱり?でも何を使うか悩んでるんだよね…」
「持ち運びに便利で、狙った相手にきちんとついて、できれば遠くの相手にも届くものがいいよねえ」
「…キリとか?」
「おしいっ!」
「(おしい?)…あ、歯は?」
「え…確かに持ち運びに便利だけども…」
「んー、ピック?」
「…えっ…それはちょっと…刺さっても取れやすそうじゃない?(や、ありか…?ミュージシャンイルミはありか…?)」

「針などはいかがでしょうか?」
…え?こいつ……
私のグラスに水を注ぎながら私たちの会話を聞いていたハサムが、さも名案!みたいな顔をして提案してきた。

…ないわー。私のちょっとした努力が水の泡だわー。もしこれでイルが採用しなかったらまじどうするよ。
それに私たちの会話に口出しするなし!まじハサム出しゃばるなし!それ以上喋るとポーランドルール発動でお前の名前がワルシャワになるし!私の心の中で。

「…いいかも」
イルは頷きながら針か…と呟いた。

え…

当初の目標である針に誘導する事は成功したのになんだこの気持ち…。
ハサムの提案に乗ったと考えると全然喜べない。どうしてくれるのハサム。

この苛立ちも、今日の服が着物なのも、イルミが可愛くて格好いいのも、ステーキが冷めたのも、ツボネがちょっと冷たいのも、いつの間にか虫刺されができたのも、きっと全部ハサムのせいだ。

2015/01/26
Fateはほぼアニメのみ。

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